Grammatica+  上級へのイタリア語

[第46回]infinito sostantivato/イタリア観光再開に向け独自の「グリーンパス」発行へ②

前回に引き続き、「グリーンパス」の話です。イタリアが観光業の再開に向けて、ワクチン接種が済んだ、あるいはコロナから回復したことを証明する「グリーンパス」を発行しようとしているという話(Green Pass Italia ed europeo, coprifuoco, quarantena: Draghi rilancia il turismo)でしたね。次の引用箇所にもあるように、これはすでに始まっているようです。

Nel dare la notizia che il pass verde nazionale per gli stranieri entrerà in vigore il 15 maggio, Draghi dà un messaggio agli italiani e alla politica, cioè che il governo intende procedere speditamente sulle riaperture. Nel dare «il benvenuto al mondo» dopo che l’Italia è stata costretta a «chiudere temporaneamente» dalla furia distruttrice del Covid, Draghi conferma l’intenzione di allentare la morsa del rigore: «Il mondo vuole viaggiare in Italia.[以下略]

Corriere della Sera, 5 maggio 2021)

外国人向けのグリーンパスは5月15日に発行するという発表を行う中で、ドラーギはイタリア国民と政治家たちにあるメッセージを与えた、すまわち、再開に向けて迅速に取り組むつもりであると。イタリアが新型コロナウイルスの猛威によって「一時的に閉鎖」せざるを得なかった後で、「世界に向けてようこそ」と言いつつ、ドラーギは厳格さを緩める意向だと断言している。「世界中の人がイタリアに旅行したがっている。…[以下略]」

 

Nel dare、〈前置詞+定冠詞+不定詞〉ですよね

いつもの癖で英語との比較から入ってしまうのですが、少なくとも英語ではin the giveとは言わないですよね(in givingならありえるでしょうが)。ここでは不定詞が完全に名詞として使われているということなのでしょうか。

 

地味にイタリア語の特徴なんですよね

まず基本的な特徴についてはその通りで、この文におけるdareは動詞(の不定詞)であるにもかかわらず前置詞や定冠詞という名詞に特徴的な要素を伴っていますね。こういう不定詞のことを、infinito sostantivatoと言います。イタリア語のinfinito sostantivatoは主語や目的語などなど、名詞が担うことのできる役割ならなんでも担うことができます。今回の文ではどちらも前置詞inを中心とする前置詞句の一部として文が表す出来事の背景を描写していますね。広い用法の幅を持つinfinito sostantivatoというのはロマンス語の中でもどちらかといえば珍しく(他にはスペイン語が似たようなものを持っているようです)、これはイタリア語の特徴の一つですね。

 

infinito sostantivatoの特徴

さて、sostantivatoというのはsostantivo「名詞」と関係のある言葉で、その名の通り名詞として使われているということを示しているわけですね。一方で、infinito sostantivatoは動詞っぽい特徴の一部を残していることがあります。このことを理解するために、今回の文の当該部分をもう一度見てみてください。どちらも動詞dareの直接目的語(la notizia、il benvenuto)は動詞の後に直接ぽんと置かれていますよね。

一方で、第18回で見たように、一部の名詞も動詞句っぽい構造をした名詞句を形作ることができて、直接目的語を持てるんでしたね。こういう場合、この回で見た例(la decisione di partire)のように、直接目的語は前置詞diによって導入されます。名詞の直後にそのまま直接目的語を置くことはできませんね(*la decisione partire)。逆に、infinito sostantivatoの後にくる直接目的語をdiで導入することもできません(*il dare della notizia)。こうして見ると、直接目的語を直後に置けるというのは名詞というよりは動詞的な特徴で、今回の文に出てくるdareは後者に近いわけですね。

実は、infinito sostantivatoには今回の文のように動詞の特徴を残しているものの他に、ほとんど完全に名詞としての特徴しか持たないものがあります。わかりやすくこの違いが見られるのが、修飾する語が出てくるケースですね。

(1) Il non esser mai stata superata quell’immagine
そのイメージを乗り越えることがなかったこと

(2) Il solenne tuonare della sua voce(Salvi & Vanelli 2004: 242-243)
その声が厳かに鳴り響くこと

(1)の動詞的な特徴を持つinfinito sostantivatoは、副詞maiによって修飾されています。ちなみに、受け身になっているのも動詞的な特徴ですね。一方で、(2)は完全に名詞化しているinfinito sostantivatoで、形容詞solenneで修飾されていますね。ちなみに、完全に名詞化しているタイプのものは、自動詞でしか作れないという特徴があります。

こうして見てみると、今回の文のil dareは完全に名詞として使われているというよりは、名詞と動詞の性質を併せ持っていることがその特徴ですね。ところで、第42回でもちらっと触れた通り、不定法の動詞を使った表現の意味上の主語をどうやって表示するかというのは、色んな戦略があって面白いんですよね。infinito sostantivatoの場合はどうなっているか、よければ考えてみてください。

 

【+α】グリーンパスの現状

イタリアで実施されているグリーンパスについて、日本語で気軽に読めるまとまった記事はないかと思って探してみたら、ありました。Yahoo!ニュースで読める、Friday DIGITALの「一足先に「ワクチンパスポートを発行」したイタリアのいま」という記事です。ちょっとだけ引用してみましょう。

現在のところ、この「グリーンパス」はイタリアの国内旅行のみ有効で、その有効期限は、最後のワクチン接種から6ヵ月間とされている。また、この「グリーンパス」はコロナウイルスに感染し完治した人も対象となり、その場合は、回復し隔離が終了してから6ヵ月間となる。

そして同時に、この「グリーンパス」は、観光のためだけでなく、「介護施設への訪問」のためのパスとしても利用できることが法案で可決された。

(「一足先に「ワクチンパスポートを発行」したイタリアのいま」, 2021/05/18)

観光だけでなく介護にも適用される、というのは、イタリアと同じく超高齢社会の日本も参考にできそうなシステムですよね。(田中)

 

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