Grammatica+  上級へのイタリア語

[第54回]半過去とアスペクト/上野動物園でパンダの双子の赤ちゃん生まれる

いつもはけっこうハイレベルな文法事項を扱う当ブログですが、今回は取り上げる内容もテーマも比較的易しいものです(たぶん)。6月23日、東京・上野動物園でメスのジャイアントパンダ「シンシン」が双子の赤ちゃんを生みました。このニュースをCorriere della Seraが取り上げ、Twitterに投稿していました。


この投稿には200以上「いいね」がついており、これは同アカウント比でかなり反響が大きい方だと言えます。イタリアでもパンダは人気なのでしょうか。それはさておき、さっそく記事を見てみましょう。

In uno zoo di Tokyo sono nati due panda giganti gemelli. Non era mai successo prima. Mercoledì 23 giugno un panda gigante ribattezzato Shin Shin ha dato alla luce due gemelli. È successo allo Zoo di Ueno, a Tokyo, il più antico del Giappone. Era da quattro anni che nello zoo non nasceva un panda.

Corriere della Sera, 24 giu 2021)

東京の動物園でジャイアントパンダの双子が生まれた。初めてのことである。6月23日水曜日、シンシンというジャイアントパンダは双子を出産した。日本最古の動物園、東京の上野動物園で起きたことである。この動物園では4年間パンダが生まれていなかった。

ribattezzare A B:AにBという新しい名を授ける

 

この引用箇所には「近過去」「大過去」「半過去」という3つの時制が出てきますが、今回取り上げるのは半過去です。

基本的な用法を含めて、半過去(imperfetto)について教えてください!

 

基礎固めも必要ですよね

多分中級以上の方って半過去みたいな基本的な事項は雰囲気で使いこなせちゃってるんだと思うのですが、立ち止まってこの時制はどういう機能があるんだろうと考えてみるのは有用そうですね。イタリア語には様々な時制があるわけですが、それぞれの時制が持つ用法に関するパラメータのうち、半過去を理解するためにとりわけ重要なのは時(tempo)アスペクト(aspetto)です。以下では、それぞれについて簡単に解説しながら半過去の性質に迫ってみたいと思います。

 

時(tempo)

まず、時については半過去に関する限り単純です。第6回第12回でも見た通り、動詞の時制は表している出来事を発話の時点(または基準となる時点)に対して前、同時、後のどこかに位置付けるんでしたね。半過去について言えば、過去という名前が示している通り、表す出来事を基準となる時点に対して前に位置付けます。例えば今回の文だと、文頭のEraは発話の時点(この記事が書かれた時)より前のことですね。

 

アスペクト(aspetto)

一方、アスペクトという用語はあんまり聞き慣れないかもしれません。これは日本語ではとも呼ばれていて、ごく簡単に言うと、動詞が描写する出来事が時間の広がりの中でどう提示されるかに関わるパラメータです。といってもピンとこないと思うので、Treccani(https://www.treccani.it/enciclopedia/aspetto_%28Enciclopedia-dell%27Italiano%29/)から次の二つの文を見てみます。

(1) Marco ha letto un libro.
マルコは本を読んだ。

(2) Marco leggeva un libro.
マルコは本を読んでいた。

「本を読む」という行為は当然、ある程度の時間をかけて起こる出来事ですよね。(1)の文は、過去においてある程度の時間をかけて起こった「マルコが本を読む」という出来事を、その総体として提示しています。本を読むという行為自体が時間的な広がりを持っているということはとりあえず無視されて、一つの完結した出来事として描写されているわけですね。こういう提示の仕方のことを、完了のアスペクト(aspetto perfettivo)と言います。

これに対して、(2)の文を見てみます。この文で重要なのは、(1)のような文では無視されている、本を読むという行為自体が時間的な広がりを持っているという事実です。半過去を使った(2)の文は、過去においてある程度の時間をかけて起こっている真っ最中の「マルコが本を読む」という出来事を、その特定のタイミングに注目して提示しています。こちらは、未完了のアスペクト(aspetto imperfettivo)と言います。半過去のこの性質がわかりやすく現れるのは、次のような文ですね。

Quella mattina, Piero andava in piscina, quando ha incontrato Giacomo. (Salvi & Vanelli 2004: 109より改変)

その朝、ジャコモに出会った時、ピエロはプールに行っているところだった。

この文では、一定の時間的広がりを持って起こる「ピエロがプールに行く」という出来事が、その時間的広がりにおける特定のタイミングに注目して提示されている一方で、その特定のタイミングで起こった出来事はその中で完結したものとして提示されているわけですね。前者には半過去、後者には近過去が使われています。ちなみに、そもそも「出会う」という出来事がその性質からいって時間的広がりを持ちえないことを考えると、アスペクトには動詞そのものの意味も影響してくることがわかりますね。

今回の文のEraは「4年間の間パンダが生まれていない」という時間的広がりを持った出来事が特定のタイミング(=基準となる時点、すなわち双子パンダが生まれた時)に注目して提示されています。

ともかく、最も頻繁に使われる過去形である近過去と半過去は、アスペクトという観点から対立しているのですね。ちなみに第16回の冒頭でも軽く触れた通り、近過去と遠過去はどちらも完了のアスペクトを表す時制です。したがって、まずアスペクトによって半過去と近・遠過去のどちらを使うかが決まった後、完了のアスペクトの場合にはさらに現在と隔たっているかどうかによって近過去と遠過去のどちらを使うかが決まるイメージですね。もちろんイタリア語で話す時に「これはこういうアスペクトだから…」なんて考える必要はないですが、教科書で半過去の用法を勉強する時なんかに、こうした基本的な性質を意識しておくのは悪くないと思います。

 

[+α]イタリアと「Panda」と言えば

イタリアを代表する国民的カーメーカーと言えばFiat(フィアット)であり、まさにこのブログのアイキャッチ画像でもよく使っているこちら(↓)の画像は、その最もアイコニックな車種、Fiat 500(フィアット・チンクエチェント)である、というのはお気づきの方も多いでしょう。……(すでに記事全体がかなり長くなってしまったので、続きが気になる方は👉こちら からお読みください)

 

Photo by Pascal Müller on Unsplash

 

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