Grammatica+  上級へのイタリア語

[第12回]大過去/直示的(deittico)な時制と前方照応的(anaforico)な時制

(2022/3/3改訂)

日本におけるコロナの感染状況と政府の取り組みについてのIl Postの記事です。2020年12月17日、東京の感染者数が一気に800人を超えたことを受けての報道。初回の今回は時制に注目します。まず、東京の感染状況について触れている次の部分を読んでみてください。

La capitale Tokyo è particolarmente in difficoltà e la governatrice Yuriko Koike ha aumentato lo stato di allerta al livello massimo. Il 17 dicembre in città ci sono stati più di 800 contagi – non erano mai stati così tanti – e adesso gli ospedali sono sotto pressione.

Il Post, 18 Dicembre 2020)

首都・東京は特に苦境にあり、小池百合子知事は警戒度を最高レベルに引き上げた。12月17日、東京では感染者数が800人を超え–過去最多–現在、都内の病院は逼迫している。

 

3種類の時制が出てきます。

現在近過去、そして大過去です。報道の時点(=12月18日)は現在形で示され、前日(17日)の感染者数は近過去形で示され、17日(過去のある時点)よりさらに過去の時点・時間を指して大過去non erano mai stati così tanti(これほど多かったことは一度もなかった)が使われています。ここはわかりやすいですね。

では、次の引用箇所の最後の一文に出てくる大過去(erano già stati superati)はどうでしょうか。

Il 17 dicembre in Giappone sono stati superati i 3mila contagi giornalieri da coronavirus, il numero più alto nel paese dall’inizio della pandemia e molto superiore ai picchi registrati in primavera e in estate. Nelle ultime settimane la situazione è peggiorata rapidamente: il primo di novembre si registravano poco più di 600 casi, venti giorni dopo erano già stati superati i 2.500.

[最後の一文の訳]直近の一週間で状況は急速に悪化した。11月1日に600人をわずかに上回る数だった(国内の)感染者数が、その20日後にはもう2500人を超えたのである。

最後の1文には11月1日(il primo di novembre)という過去の時点が示されますが、大過去が使われているのはそれより20日「後」(=11月21日)のことについてです。一瞬不思議な感じがします。

が、今回はまず私の考えを述べてみます。このパラグラフ内では、冒頭にある「12月17日(報道の前日)に3000人超の感染者があった」というのが時制の起点となっている。したがって、11月21日は過去のさらに過去だから大過去が使われている。そういうことではないでしょうか?

 

全くその通りです。

おわり!

というのもアレなので、イタリア語の時制(tempo verbale)について、簡単に見てみたいと思います。ちなみに、第6回と同様に、「時制」という用語は一般的な概念としての「時」に対応して変わる動詞の形を指すために使うことにします。

 

時制には二種類ある

まず、時制というのは大まかに言って二種類に分けることができます。時制の一致について扱った第6回から、次の文をもう一度見てみます。

Ha sempre detto che avrebbe continuato a lavorare.

主節の時制は発話の時点と主節の時点の関係で決まるんでしたね。このように、発話の時点との関係で決まるものを直示的(deittico)な時制と言います。一方で、従属節の時制は発話の時点ではなく、主節の時制との前後関係で決まります。こうした、発話の時点ではなく何かしらの手段で文脈の中に示された基準となる時点(tempo di riferimento)に対する前後関係で決まるもののことを前方照応的(anaforico)な時制と言います。こうして考えると、時制の一致が起きる(すなわち、主節と従属節の時点の関係性を特定の時制で表す)ケースというのは、前方照応的な時制の基準となる時点が主節によって示されているケースなのですね。

基準となる時点は、同じ文の中で明示的に示されるとは限りません。今回の文はまさにそうしたケースで、直前にある11月1日ではなくパラグラフ冒頭の12月17日が基準となる時点なのですね。大過去は「過去の中の過去」、つまり基準となる時点が発話の時点に対して過去のとき、それよりさらに前の出来事を表す時制ですね。

ちなみに、こういう風に基準となる要素に別の要素が結びついて解釈される現象のことを、言語学ではancoraggioと言ったりします。この語はancora「錨」(アクセントは最初のaにあるので、「まだ」のancoraとは別の語です)という語から派生した言葉で、直訳すれば「停泊」とか「係留」という意味です。ある動詞が大過去形で使われるとき、この動詞が表す出来事は事前に文脈の中に下ろされた「錨」に結びつけられた状態で時間軸の中に提示されるのですね。聞き手(読み手)は、発話の時点である「今」ではなくその錨が示す時点を基準にして解釈してね、という指示を読み取るわけです。

[+α]イタリアと日本のコロナ事情

このご時世なのでイタリア人の友人と話すときもコロナが話題になることが多いのですが、とにかく印象的なのは(判明済みの)感染者数の多さですね。日本だと知り合いの知り合いが感染したというような話をちょこちょこ聞く程度ですが、イタリアでは直接の友達レベルでの感染者が全く珍しくありません。イタリアの累計感染者数はこれを書いている2020年末時点で200万人を超えていて、総人口が6000万人であることを考えると想像を絶する広まり方をしています。

この数字の違いもあいまって、イタリアでの基本的な印象は「日本はコロナウィルスの抑え込みに成功している国」のようです。これは、日本が「きちんとした国」であるという基本的なイメージが根底にありそうですね。これが事実かはともかく、今回のニュースはこの印象に一石を投じる内容であると言えそうですね。(土肥)

 

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