Grammatica+  上級へのイタリア語

[第76回]形態変化しない形容詞bio/酷暑と環境意識②

今回は前回(一カ月前)のエントリーで取り上げたのと同じ抜粋箇所について、別の切り口から見ていきます。土肥くんが[+α]というコラム部分でも取り上げてくれたbioという語から話を広げていきます。まず、該当箇所を含む部分の引用です。

Bisogna avere il coraggio di dire apertamente che i primi che devono farsi carico di quello che sta capitando sono i grandi centri finanziari e le compagnie energetiche, ma anche i ricchi che comprano il detersivo “bio” e poi usano il jet privato per spostarsi.

Il Fatto Quotidiano, 1 Agosto, 2023)

今まさに起きている事態の責任を真っ先に取るべきは、大手金融センターやエネルギー企業であり、さらには「バイオ」(=環境に配慮した)洗剤を購入していうにもかかわらず、プライベートジェットで飛び回っているような富裕層でもあると、勇気をもっておおやけに言う必要がある。

 

今回に関して言うと、できれば前回の[+α]をお読みいただいてからの方が、理解度が深まるかもしれません。こちらからお読みいただけます。

(田中)ここでのbioは品詞としては形容詞で、直前の名詞detersivoを修飾していますね。イタリア語では修飾する名詞の性・数に合わせて語尾が変化しますが、bioはbio, bia, bii, bieのように変化…しそうにありませんね。なぜでしょう?

 

(土肥)なんでもかんでも変化するイタリア語なのにね

形容詞の変化、すなわち形(形態)の話ですね。前に形態の話が出てきた第38回でも触れた通り、このブログで扱うテーマとしては珍しめですね。ちなみにこの第38回で扱ったような動詞の変化のことを活用coniugazione、名詞や形容詞などその他の変化のことを曲用declinazione、二つを合わせて屈折flessioneと言います。豊富な屈折体系を持っていることは、ラテン語の子孫であるロマンス語の大きな特徴ですね。変化というとやっぱり動詞の活用に目がいきますが、こう考えると形容詞や名詞の曲用も「イタリア語らしさ」の一部ですね。変化しない形容詞は、まあ学習者としては楽といえば楽ですが、やっぱり目を引きます。

さて、形容詞の曲用は、伝統的には三つに分けられることになっています。rossoやaltoのように-o, -i, -a, -eと変わる第一変化、gentileやpesanteのように-e, -i, -e, -iと変わる第二変化、ottimistaやentusiastaのように-a, -i, a, -eと変わる第三変化です。これ以外のものは、要するに「その他」ですね。第一とか第二みたいにナンバリングしていくのは、なんとなくラテン語文法っぽい雰囲気がありますね。

「その他」にはたとえばsornioneみたいに-e, -i, -a, -eと変化するものがあったりしますが、やっぱり代表例はまさに今回のbioがそうであるような無変化の形容詞ですね。一方で、一口に無変化といっても実はかなり色んなパターンがあります。最もメジャーなものをいくつか挙げると、まずbluのように一音節のみからなるものですね。これは形容詞だとかなり珍しくて、他にはあんまりありません。次に、pariのように単数形が-iで終わるもの、chicのような外来語(のうち、イタリア語のシステムに入り込んでいないもの→第31回)があります。また、rosaみたいな色の名前もしばしば無変化ですね。

こうしてみると、無変化の形容詞というのは無変化の名詞と似たパターンを持っていることが多いですね。次の表にまとめるように、同じ性質を持つ名詞が無変化になっています。

形容詞 名詞
単音節 blu gru
-i終わり dispari ipotesi
外来語 snob sport
indaco viola

 

では今回の記事に出てくるbioはどうかというと、これは前回の+αでも書いたように、biologicoを縮めたものですね。縮めた語が無変化になるのも、名詞と共通しています。foto(fotografia)だとかauto(automobile)がよく例に挙がりますね。むしろ、このパターンのものは名詞がほとんどで、bioのように形容詞が縮まっているものはかなり珍しいです。すぐ上に挙げたような形容詞が無変化だというのはルールを意識したことがない人でもイタリア語に慣れていればあんまり違和感はないですが、そういう人にとってもbioがちょっと目を引くのはこういう事情もあるかもしれませんね。

ちなみに無変化の形容詞には面白い特徴があって、基本的に修飾する名詞の後にしか現れることができません。形容詞の語順を扱った第14回でいうところのグループB、名詞との語順が固定されているタイプですね。実は、これも名詞と共通した特徴ですね。奇しくも今回の記事と同じく猛暑について扱った第71回では、recordという名詞が他の名詞と一緒になって「記録的な」という意味を表す表現を扱いました。ここでも書いた通り、この時のrecordは必ず修飾する名詞の後に来ます。こうして見ると、無変化の形容詞というのは形容詞っぽい名詞と似た、少しだけ名詞っぽいけどやっぱり形容詞…みたいな、ちょっとどっちつかずの表現ですね。bioは、文法カテゴリーが絶対ではなく流動的であることを象徴するような語だと言えるかもしれません

 

【+α】関連記事まとめ

今回の記事で触れられている記事を以下にまとめました。

ちなみに、全記事の目次はこちらからご覧いただけます。

 

 

 

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