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[第44回]指小辞diminutivo “-ino”/イタリア、1日50万回のワクチン接種達成②

イタリアでは一日に50万回のワクチン接種が行われているということを報じる記事を取り上げています。それ自体はかなりすごいことですが、ワクチン計画の主導者が、3月時点では「4月中旬から1日50万人に予防接種を行う」と宣言していたのが、いつのまにか「4月末までに1日50万人に接種するようにする」という目標にすり替わっていた、ということをメディアが指摘していました。事実、1日50万回の接種を達成したのは、4月中では最後の2日だけだったようです。

In conclusione, possiamo dire che nella realtà dei fatti, avendo il commissario dichiarato “Vaccineremo 500mila persone al giorno dopo metà aprile”, l’obiettivo è stato realizzato con successo per due giorni su 15, ovvero per il 13,4%, e dobbiamo, visto il numero di somministrazioni dei primi di maggio, presupporre che ci sia un nuovo tacito obiettivo, ovvero le solite 350mila dosi giornaliere di media. Un successino-ino-ino-ino.

Il Fatto Quotidiano, 5 Maggio 2021)

結論としては、実際には、代表者が「4月半ば以降に1日50万回のワクチン接種を行う」と宣言していたことから、その目標は(1カ月の後半に当たる)15日間のうち2日間でのみ達成された、言い換えれば達成率は13.4%だったと言うことができ、かつ、5月初旬の投与量の数値から見て、新たな暗黙の目標、すなわち1日平均35万回の接種という目標があるのだと推測しなければならないだろう。(そう考えれば)ほんのささやかな成功でしかないのだ。

 

successoに-inoがついたものですね

接尾辞を取り上げるのは今回が初めてですが、こんなふうに-inoだけをつなげていけるんですね。へえーと思って伊和中辞典で”-ino”を引いてみると、È un paesino, ma ino ino davvero.(それは小さな村だ、本当に小さな、小さな)なんて用例が載っていました。面白いですね。

 

指小辞ってやつですね

イタリア語を学ぶと、わりと早い段階で-inoがつくと「小さい〜」っていう意味になりますみたいなことを習いますよね。これは要するに元となる語(successo)に別の要素(-ino)をくっつけて新しい語を作り出すという、語形成(formazione delle parole)の一種ですね。このブログでは例えば第7回で外来語と関連してこの手の現象を扱ったわけですけど、今回のように元となる語+そこにくっつく要素でできている新しい語を生み出す現象を、派生(derivazione)と言います。派生によって作られた語は、派生語(parola derivata)ですね。今回のsuccessinoは元となる語の後ろに要素がくっついていて、こういうもののことを接尾辞(suffisso)と言うわけです。

派生は、第7回でも言及した複合語と並んで、イタリア語で最もよく使われる(生産的な)語形成の一つです。複合語が二つの独立した語の組み合わせなのに対して、派生語は片方がもっぱら元の語にくっつくための要素であることがその特徴ですね。接尾辞を含めた「くっつく要素」一般のことを、接辞(affisso)と言います。語の前につく接辞は接頭辞(prefisso)です。例えば、fortuna「幸運」+ s- →sfortuna「不運」などですね。ちなみに語の前でも後でもなく途中に現れる接辞というのもあって、接中辞(interfisso)と言います。イタリア語ではなかなかレアですが、一部のire動詞に現れる-isc-などはその代表例ですね(fin-isc-o)。

 

指小辞・指大辞の特徴

さて、実は接尾辞を使った派生の一般的な特徴は、接頭辞と違って、元となる語の文法カテゴリーを変えてしまうことにあります。どういうことかというと、例えば名詞にくっついて形容詞を作り出したり(fama 「名声」+ -oso → famoso「有名な」)、形容詞にくっついて副詞を作り出したりする(veloce「速い」+ -mente → velocemente「速く」)わけです。こう考えると、今回のような指小辞やその逆の指大辞(accrescitivi)の特徴は、接尾辞であるにもかかわらず元の語のカテゴリーが変わらない(名詞から名詞を派生する)点にあると言えそうです。語のカテゴリーが変わらないということは文法上の性質が変わらないということですね(ただし、名詞の性は変わることがあります)。

もう一つの指小辞・指大辞の特徴は、指し示すものという意味での語の「意味」を変えているわけではないという点です。今回の文を見てみると、successoではなくsuccessinoと言った時に話し手(記事の筆者)は、「1日50万人のワクチン接種」とは別の「成功」を指し示しているわけではないですよね。むしろ、全く同じ「成功」に対する自身の主観的な、ここではネガティブな評価を伝えています。

これは要するに、我々が世界に関する一般的な知識として持っている「成功というのは大きいほど良いものである」みたいな事実と組み合わせなければその意味が理解できないということですね。世界に関する一般的な知識というのは文脈の一部です。つまり、指小辞や指大辞というのは、個別の語や文というよりは文脈の中でその価値を発揮する語なのですね。言葉と文脈の関係について研究する言語学の分野のことを、語用論(pragmatica)と言います。指小辞は、語用論上の価値(valore pragmatico)を持つ要素ですね。

ところで、-inoは指小辞の中でも最も生産的なものの一つで、今回の文がそうであるように単独で形容詞として使われるのもおそらくそのことと関わっていますね。要するに、どんな名詞にもつくことから、イタリア語の話者たちに独立した語であるかのように感じられつつあるということです。一部の接辞(例えば、副詞を作る-mente)は独立した語であったものが他の語の一部であるかのように感じられるようになったことから生まれているのですが、その逆バージョンですね。言語の変化というのは面白いです。

 

【+α】イタリアとワクチン

イタリアの状況を見ていると、ワクチンの効果の大きさを感じます。データを見ていると、イタリアにおける感染拡大状況はそもそも3月末くらいをピークに改善傾向ではあるのですが、特に死亡者数に関してはワクチン接種を加速し始めた4月後半から明らかな減少傾向です。また、データの改善に伴って日本と比べて厳しかった各種の規制も段階的に緩和されています。いくつかの州は6月1日から基本的なソーシャルディスタンスとマスクの着用以外の義務のないホワイトゾーンに入れる見通しで、ニュースによっては、6月末にはイタリア全土がこのホワイトゾーンになれると言っているものもあります。

ちなみにこの記事では批判されていますがイタリアのワクチン接種は本当に速く、州によりますが5月下旬時点で10代〜40代の予約が開始されています。全体として、それがいいか悪いかはともかく、イタリアにはようやくこの長いコロナ禍が収束に向かっているという希望に満ちた雰囲気がありますね。緊急事態宣言の延長を議論している日本とは対照的です。(土肥)

 

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