Grammatica+  上級へのイタリア語

[第43回]ダブるsi(ci si)/イタリア、1日50万回のワクチン接種達成

ワクチン接種に関する話です。日本でのワクチン接種の進行が世界的に見て遅れているのは周知の事実ですが、一方イタリアでのワクチン接種はなかなかスムーズに進んでいるようです。その一つの目安となるのが「一日に約50万回の接種を行う」という目標で、事実イタリアは4月末にこの目標を実現しました。

しかし、今回取り上げるIl Fatto Quotidianoの記事は「一日50万回の接種達成」を手放しで称賛することに「待った」をかけています。記事で指摘されているのは、ワクチン計画を主導しているフランチェスコ・パオロ・フィッリュオーロ(Francesco Paolo Figliuolo)将軍が、3月時点では「4月中旬から1日50万人に予防接種を行う」と宣言していたのが、いつのまにか「4月末までに1日50万人に接種するようにする」という目標にすり替わっていた、というものです。

Una questione ben diversa, perché ci si attende che con tali presupposti iniziali, dal 15 aprile fino al 30 aprile si somministrino 500mila dosi al giorno per tutto quel periodo, ma sostituendo “dalla metà di” con “entro” ecco che un obiettivo pressoché infattibile diventa un successo.

Il Fatto Quotidiano, 5 Maggio 2021)

(※当初「4月半ば以降に1日50万回のワクチン接種」がいつのまにか「4月中に1日50万回の接種を達成」という目標にすり替わったことについて)こうなると話は全く別である。というのも、先ほど触れた当初の条件では、4月15日から4月30日までに、その期間を通して1日50万人分のワクチン供給が望める、という話だったのに対し、「(4月)半ば以降」を「(4月)中に」に入れ替えてしまえば、ほぼ実現不可能だった目標が途端に成功事例となってしまうのである。

 

ci si attendeを見てみましょう。

元はsi si attendeなのが、発音しやすいように1つ目のsiがciになっているんですよね(第35回のeufoniaとcacofoniaの話?)。attendersiという再帰動詞に非人称のsiが付いた形、という解釈で合っていますか?

 

発音の問題というよりは

単にこれら二つの語の組み合わせが許されないという、文法の問題であるように思います。というのも、si situaとかsospesisiとかを考えてみれば、si siという音の連続自体は忌避されていないですよね。

このテーマは、久しぶりに扱う「何のsi?」(第9回)の続きですね。再帰動詞の一部をなしているsi(ちなみに、今回の文のattendersiは第20回でも扱った受益の再帰動詞ですね)と非人称のsiというのは別物なので、当然同時に使いたいこともあるわけですね。その時、二つのsiは別物であるにもかかわらず同時に現れることができず、片方をciという形で代替しなくてはいけないということのようです。今回は、この時に何が起こっているのかについて検討してみたいと思います。

 

ci siのciは再帰代名詞のsi? 非人称のsi?

まず、おそらくは最初に出てくるであろう疑問から考えていくことにします。そもそも、ciに変化しているのって再帰代名詞のsiと非人称のsiのどっちなんでしょうか? この点に関しては、文法書の意見は統一されていません。ですが、説得力がある説明を提供できているのは、再帰代名詞のsiが変化しているというものだと僕は思います。

今回の文がそうであるようにci siであってsi ciとはならないのだから、どちらのsiが変化しているのかという問いは要するに、どちらのsiが前に出てきてどちらのsiが後に出てくるのかという問いですよね。これに関連して、再帰代名詞のsiも非人称のsiも接語形の代名詞(第41回)なわけですが、接語形の代名詞というのはsiに限らず、複数同時に使われることがありますよね。例えば次の文では、どちらも接語形の間接目的語の代名詞(gli)と直接目的語の代名詞(lo)が同時に使われています。

Glielo do.

(私は)彼/彼女にそれをあげる。

接語形代名詞は、複数現れると必ず特定の語順で現れます。この例文で言えば、*Lo gli do.とは絶対にならないわけですね。このことを利用して、再帰代名詞のsiと非人称のsiのどちらが先に現れるのかを知るために、他の接語形代名詞と一緒に現れた時に二つのsiがどういう語順をとるのかを見てみます。特にわかりやすいのが直接目的語と一緒の時で、再帰代名詞のsiが直接目的語より前に出てくるのに対して、非人称のsiは直接目的語より後です。

Se lo mangia.(再帰代名詞のsi)
(自身のために)それを食べる。

Lo si mangia.(非人称のsi)
(人は一般に)それを食べる。

実は、非人称のsiはほとんど全ての代名詞の後に現れます(非人称のsiより後に現れるのは、neだけです)。ということは、再帰代名詞のsi→直接目的語→非人称のsiという順番をとるということで、これが再帰代名詞+非人称の組み合わせの時だけ突然逆になるというのは、ちょっと説得力がないですよね。したがって、ciに変化しているのは再帰代名詞であると考えるのがよさそうです。

この考えを採用する研究者の間では、こうしたケースでは単に音が変わっているのではなくて、一人称複数のciがsiの代わりに使われていると考えられています。要するに、si siという組み合わせが使えないので、仕方なく動詞が三人称単数であるにも関わらず一人称複数のciを使って再帰動詞を作るのですね。

ci si attendeみたいな表現は我々のような学習者としてはなかなかぱっと出てこず、使いこなせると上級者という感じがしますよね。いざという時にばっちり使えるように、こういう記事なんかで見た時にはぜひ気をつけておきたいです。

 

[+α]ワクチン接種の状況(日本とイタリアの比較)

こちら(https://vdata.nikkei.com/newsgraphics/coronavirus-vaccine-status/)の日経新聞のサイトから世界のワクチン接種状況がチェックできるようになっています。

この記事の作成時点(5月18日)では、イタリアは人口100人あたりの接種回数が「44.8」、日本は「4.8」となっており、単純に言ってイタリアは日本の10倍の速さでワクチン接種が進んでいる、という状態でした。

今(5月23日)もさほど変わりませんが、イタリアは堅調に回数を増やして「47・9」(田中)、日本も上げて「6.3」ではありますが、データのソースを見ていただければわかるように、日本はかなり下までスクロールしないと出てこないというのがワクチン接種の遅れを端的に示していますね。とはいえ、今のところおおむねスムーズに進んでいるようですし、実際に接種に携わっている医療従事者の方々の努力には頭が下がります。自分の番が回ってくるのを今は静かに待つことにします。(田中)

 

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