Grammatica+  上級へのイタリア語

[第9回]何のsi?/Zalando CEO「妻のキャリア優先で辞任」②

(2022/1/12改訂)

前回に引き続きZalandoの共同CEOルービン・リッター氏が、妻がキャリアを追求できるようにするために自らの役職を辞する、というニュースから。今回は、前回の引用部分の直後を取り上げます。イタリア国内の状況について触れられています。

Guardando la situazione in Italia si scopre che lo scorso anno si sono registrati quasi 40 mila casi di dimissioni di neomamme a fronte di un totale di poco più di 51 mila abbandoni.

Rai News, 08 dicembre 2020)

[訳]イタリアの状況に目を移すと、昨年、離職件数が合計で5万1000強あったのに対し、子供を出産した女性の離職が4万件近く(…?…)。

※ここでのdimissioniとabbandoniはどちらも「離職」の意だと思われる。

 

今回見ていきたいのはsi scopresi sono registratiの部分です。

これらのsi、正直私は適当に読み飛ばしてしまうことが多いんですよね。その結果、いつまでたってもよくわからない。「再帰動詞・受け身・非人称のsi」について、復習・確認という意味合いも込めて、土肥くん、解説をお願いできますか。

 

イタリア語の文章を読んでいると、siは実に色々なところに現れるんですよね。

場合によっては一緒に現れる動詞の意味さえとれれば大した問題なく読めちゃったりして、まあこれでもいっか!となるわけですね。

でも、これから簡単に見てみるようにsiが持つ用法の多様さはとっても面白いし、実際にイタリア語学においてはクラシックなトピックです。こういう「ニッチな」文法項目について知ることは必ずしも言語運用において直接的に役立つわけではないけれど、我々のイタリア語に対する理解を深めてくれるのは間違いないと思います。

さて、国光くんが言ってくれているように、siの用法は大きく三つに分類されます。再帰動詞・受け身・非人称の三つですね。これ自体は多分、中級レベルだとなんとなく用語を聞いたことくらいはあるという方もいるんじゃないかな。といっても、最初に理解すべきなのは、これら三つの用法が全て平等なのではないということです。どういうことかと言うと、siはまず何よりも再帰代名詞(pronome riflessivo)です。再帰代名詞のsiの派生として、受け身や非人称の用法を持っているのです。このことを念頭に置きつつ、それぞれの用法についてごく簡単に見てみます。

 

再帰代名詞のsi

まず、siが再帰代名詞であるというのは、特に説明がいらないと思います。再帰代名詞を使って作られる再帰動詞はそれ自体が色々な用法を持っていてすごく面白いのですが、それは次回以降に回すとして、とりあえず「彼/彼女/それ自身」と解釈できるような文に現れる用法だと思っておきます。

Gianni si lava.
「ジャンニは自分自身(の体)を洗う。」

ここでちょっとだけ突っ込んだ言語学の話をしたいと思います。前回も述べた通り、文というのは動詞を中心として様々な要素からできているわけですが、それぞれの要素は動詞に対して何かしらの役割を持っています。上の例文でいうと、動詞lavare「洗う」を中心として、その行為の主体となる人(Gianni)と対象となるもの(これもGianni)からできています。Gianni lava i piatti.「ジャンニが皿を洗う。」というような文と比べてみると、再帰代名詞のsiは何か特殊な存在であるかのような雰囲気をまとっていますが、単に行為の主体と対象が同じであるというだけで、i piattiのような普通の目的語と同じようにこの「動詞を中心とした役割構造」の一部をなしています。

 

受け身のsi

さて、このような話をしたのは、受け身のsiと非人称のsiはこうした構造の一部をなしていないからです。まず受け身のsiについて見るために、冒頭の文の一部を抜き出して見てみましょう。可能な限りわかりやすくするために、現在形にしています。

Si registrano quasi 40 mila casi di dimissioni.
「4万件近くの辞職が記録されている。」

この文におけるsiは典型的な受け身のsiです。受け身の構文なので、他動詞registrare「記録する」の目的語であったquasi 40 mila casi di dimissioniが主語になって、動詞が三人称複数形registranoに活用しています。この時、siは「代名詞」であるということになっているわりに、動詞registrareに関連して「行為の主体」でも「対象」でもなければ、その他の役割を持った名詞の代わりをしているわけでもないですよね。単に、これが受け身の構文であることを示しているだけです。

 

非人称のsi

同じことが非人称のsiにも言えます。非人称のsiと受け身のsiは細かい違いが色々とあるのですが、わかりやすい違いの一つに「非人称のsiは自動詞と共に使える」というものがあります。受け身のsiと共に現れるのは受け身としての性質上、他動詞に限られます。一方で非人称のsiは受け身ではないので、andareのような自動詞と共に現れることができます。また、非人称のsiは単数形でしか用いないことも特徴ですね。

In Italia si va a scuola anche il sabato.
「イタリアでは土曜日も(人々が、一般に)学校に行く。」

この場合にも、siはあくまでもこの文を非人称の構文として解釈しなければいけないことを表しているだけで、動詞を中心とした役割構造を想定した時にどんな役割も持っていません。こうして考えてみると、非人称のsiや受け身のsiは、「再帰代名詞より出でて、再帰代名詞でないもの」なのですね

ところで最後に、ここまでの説明を念頭にsi scopreのsiを見てみます。scoprireは他動詞だし、単数形だし、非人称なのか受け身なのかわからないですよね。このように、実は非人称のsiと受け身のsiはどちらだとしても同じ形になることがあるのですが、そもそも「〜ということが発見される」も「人々は〜ということを発見する」も、意味としては実質的に同じです。それぞれの用法にどのような性質があるのかを知っていれば、個別の用例を分類することができなくても慌てることなく理解することができると思います。

 

[+α]イタリアにおけるジェンダー・ギャップ

今回の記事はジェンダーに基づいた役割分担に一石を投じる内容だったわけですが、イタリアもジェンダー平等に関しては進んでいる国とは言いがたいようです。日本が153か国中121位で話題になったジェンダー・ギャップ指数2020では、イタリアも前年から順位を落として76位でした。これはヨーロッパの中ではかなりの下位です。どちらの国でも政治・経済分野における格差が問題になっているのですが、日本では政治における格差が極端に大きいのに対して、イタリアは経済格差の方が大きいようです。こうした状況は、記事にもある新生児を持った「マンマ」たちの離職とも関連していそうですね。(土肥)

 

引用箇所の語句と訳

Guardando la situazione in Italia si scopre che lo scorso anno si sono registrati quasi 40 mila casi di dimissioni di neomamme a fronte di un totale di poco più di 51 mila abbandoni.

[語句]registrare: ~を登録する、記録する/caso: 件、ケース/dimissione: [主に複数で]辞職/neomamma: 新生児の母、新米ママ/a fronte di: ~に対して、~と比較して/abbandono: ▶ここでは「(仕事を)あきらめること、離職」の意。

[訳]イタリアの状況に目を移すと、昨年、離職件数が合計で5万1000強あったのに対し、子供を出産した女性の離職が4万件近く記録されたことがわかっている。

元記事はこちら▼
Zalando: Ritter lascia per dare “priorità” alla carriera della moglie

 

こちらの記事もおすすめ