Grammatica+  上級へのイタリア語

[第14回]イタリア政変/形容詞の語順

(2022/6/23改訂)

今(※2021年初めのこと)、イタリアでは政局が大きく動いています。今回はIl Postの解説記事を取り上げ、政変の内情についても[+α]で触れますが、まずは今日の文法テーマを見ていきましょう。

※なお、イタリア語記事は2020年12月14日のものなので、le prossime settimaneとは12月21日以降の数週のことを指しています。

Nelle prossime settimane, però, ci sono in programma diversi appuntamenti che potrebbero creare nuove tensioni all’interno della maggioranza, a cominciare dal voto in Senato su un nuovo decreto legge Ristori – il primo scadrà il 26 dicembre – che accorperà tutti i decreti Ristori approvati finora e che prevede una serie di emendamenti, tra cui la sospensione del pagamento delle rate dei mutui sulla prima casa fino alla fine del 2021.

Il Post, 14 Dicembre 2020)

しかし今後数週間のうちに[diversiな]出来事が予定されており、それらが連立与党内部に新たな緊張をもたらす可能性がある[…]

 

イタリア語では形容詞が名詞を修飾するとき、〈名詞+形容詞〉の語順がふつうだと学びますね

第1回で学んだ知識を活かすならば、〈名詞+形容詞〉の語順が「無標である」ということが言えるのかと想像しますが、マーカーを引いたdiversi appuntamentiは〈形容詞・名詞〉の語順、すなわち「有標」ということになり、何か普通とは異なる意味が加わっていそうですね。もう一つ、「伊伊辞典を引いてみる」という学びも実行しTreccaniを見てみるとこうありました。

diverso
2. Quando precede un nome, specialmente al plurale oppure collettivo, più che la diversità indica la molteplicità e significa molto, parecchio
(名詞の前、特に複数形か集合名詞の前に置かれたとき、多様であることより、数の多さを示し、「たくさんの」とか「多くの」を意味する)

ここではこの意味で使われているのだと思いますが、なぜこのようなことが起こるのでしょうか。

 

diversoの用法は、まさにその通りです!

形容詞と名詞の語順について、もう少し詳しく見てみます。ちなみに厳密にいえば、ここで扱う形容詞は所有形容詞だの数量形容詞だのといったものを除いた、名詞の性質を表す形容詞(aggettivi qualificativi)です。しかもそのうちessereのような動詞の後に来る用法ではなく名詞の前後に直接現れてその名詞を修飾する機能(funzione attributiva)を担うケースですね。

この場合の形容詞はたしかに名詞の前にも後にも現れることができて、その無標の位置は名詞の後ろであるようです。この点に関して、Treccaniの記事(https://www.treccani.it/enciclopedia/aggettivi_%28Enciclopedia-dell%27Italiano%29/)を参考に形容詞を大きく三つのグループに分けてみます。

グループA:名詞の前か後かで意味が大きく変わるわけではないが、ニュアンスが多少変わるもの
Un bravo architetto ~ un architetto bravo
「優秀な建築家」

グループB:名詞の前または後ろにしかつけられないもの
Il futuro presidente ~ *il presidente futuro
「未来の大統領」(アステリスクは言えない文です)
*Un russo romanzo ~ un romanzo russo
「ロシアの小説」

グループC:名詞の前か後かで意味が明らかに変わってしまうもの
Un povero ragazzo ~ un ragazzo povero
「哀れな少年」〜「貧しい少年」

今回の文に出てくるdiversoは、典型的なグループCの形容詞の一つですね。かなり大雑把に言うと、こうした差は名詞の前と後の位置で形容詞がそれぞれ異なるニュアンスを持つことに起因すると考えられそうです。別の言い方をすると、グループAを基本として、グループBやCはその特殊なケースであると考えられるということですね。名詞に対する位置によって付与されるニュアンスと個別の形容詞が持つ意味が相容れないものであればグループBに、このニュアンスと形容詞の意味の合わせ技がそれぞれの位置でかなり具体的かつ特別な意味を形作る場合にはグループCに入るというわけです。

じゃあ、その「名詞に対する位置によって付与されるニュアンス」ってなんなの?という疑問が当然浮かんでくると思うのですが、この点に関しては統一的な見解があるとは言いがたいようです。意味とかニュアンスといった言語の中でもかなり抽象的な側面を相手にしていることを考えれば、これは仕方ないのかもしれませんね。これまた大雑把に一般化すると、名詞の前に現れる形容詞は後に現れるものに比べて話し手の主観的・情緒的な判断が前面に出てくる傾向にあると言われています。たとえば名詞の前に現れるpoveroが物質的ではなく精神的な「貧しさ」を表すのは、こう考えれば理解できるかもしれません。

これがdiversoの場合にどの程度適用されるかはともかく、複数のものに対して「多様である」というのと「数が多い」というのは考えてみればよく似た概念で、共通点を持つ二つの側面ですよね。名詞に対する位置によって異なるニュアンスが前面に出てくる現象が、この形容詞が使われるうちに慣習化・固定化したケースの一つであると言えそうですね。

 

[+α]動乱のイタリア政治。何が起き、これからどうなるのか

【※2021年2月1日に書いたものです→】今回取り上げた記事はPerché si parla di crisi di governo?という見出しでした。実はこれは2020年12月の記事なのでこうしたやや悠長な(?)な題がついているわけですが、これを書いている現時点(2021年2月1日)では、すでにこのcrisi di governoは起きてしまっています。今イタリア政界で何が起きているのかごく簡単にまとめました。

何が起きたか

イタリアの国政はつい最近まで5つの政党(グループ)から成る連立政権が担っていました。議席数の順に並べると「五つ星運動」「民主党」「イタリア・ヴィーヴァ」「混合会派」「自由と平等」となります。そしてこの複雑な連立与党を率いるのがジュゼッペ・コンテ首相ですが、彼はどの政党にも属していません。この人はフィレンツェ大学で教鞭を執る法学者(当時政治経験はゼロ)でした。

今回の動乱のカギを握るのは政党「イタリア・ヴィーヴァ」とその党首であるマッテオ・レンツィです。レンツィは2014年2月から2016年12月まで首相を務めた大物政治家で、当時39歳という史上最年少の若さで就任したことでも話題を集めました。「壊し屋」(rottamatore)の異名を持つ彼はその若さと行動力を武器に一部の層から熱烈に支持されます。

彼はもともと民主党の党首でしたが、コンテ政権下の2019年、党内部の対立で党を離れて「イタリア・ヴィーヴァ」という新党を結成します。その段階ではまだ連立与党内にはとどまっており、首相への協力姿勢も示していました。しかし今年1月13日、表向きは政権の「コロナ禍対策における予算」に対する不満を理由に連立政権から離脱します。これによってコンテ政権は議会で多数派を維持できなくなり、政局が混乱に陥りました。

 

レンツィは何がしたかったのか

レンツィが「イタリア・ヴィーヴァ」を率いて政権を離脱したのは「EU復興基金」を巡っての対立が理由とされています。コンテはEUのコロナ救済策の一環として「EU復興基金」に2090億ユーロを拠出する計画を打ち出していました。それに対しレンツィは、危機的な状況にある国内の医療や教育に資金を投じるべきだと主張し、対立しました。もちろんこの主張・立場を支持する国民はいるでしょう。しかし大半の国民はこのレンツィの「反乱」に冷めた視線を送ります。

強硬姿勢を示して見せたレンツィ氏に、世論は冷めていた。新型コロナの感染者の累計は240万人、死者は8万人を超え、欧州の中でも英仏スペインと並んで過酷な感染拡大に苦しむ今のイタリア国民に政局を面白がる余裕はない。「自分の利益を優先している」とレンツィ氏を非難する世論調査結果が噴き出した。

(時事通信「レンツィ元首相の乱、失敗 イタリア国民、政局に冷淡―コンテ内閣、両院で信任」2021年01月23日 ※元記事はすでに削除されています)

混乱に乗じて一発賭けに出てみたがコロナ禍でそれどころではない国民の大半からドン引きされた、という構図ですね。国民の支持を得られないと悟るや一転譲歩的な姿勢に出ましたが時すでに遅し。レンツィの政治的求心力は大幅に減退したと言えそうです。

 

これからどうなるのか

過半数を失ったコンテ内閣は1月18日、19日、上下両院の信任決議で僅差ながら信任を勝ち得ます。しかし議会の絶対多数には達しなかったため、26日、大統領に辞表を提出しました。今後の見通しとして蓋然性が高いのは、マッタレッラ大統領が今なお国民の信頼の厚いコンテに再度首相を任せ、新内閣を組閣させるというもののようです。しかし、いったんはマジョリティを失った内閣ですから、新たな支持勢力を組み込んでより安定した政権を作り直す必要はあるでしょう。(田中)

 

画像:Alexandros Michailidis / Shutterstock.com

 

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