Grammatica+  上級へのイタリア語

[第16回]「遠過去」ではなく「隔過去」と呼ぶべきではなかろうか/宮崎駿、80歳になる②+イタリア人とアニメの話になると

宮崎駿が80歳になったというニュースの第2回。今回取り上げるのは「遠過去」です。

Proprio al Lido nel 2013 dove si trovava per presentare la sua ultima opera “Si alza il vento”, Miyazaki annunciò il suo ritiro dall’attività ma due anni dopo tornò sui suoi passi e oggi, al traguardo degli 80 anni, il grande regista conferma attraverso il sito dello Studio Ghibli, l’avanzamento della lavorazione di un nuovo lungometraggio già in cantiere da tre anni, dal titolo “How do you live?”.

Rai News, 05 gennaio 2021)

 

私のようなある程度イタリア語を学んだことのある(が専門的な知識はない)人間からすると

「遠過去」というのは、まあ自分では使えないし使う必要があるとも思っていないのだけれど、形が特徴的だから文中に出てきたら「あ、遠過去だ。まあ、過去のことなのかな」と思うくらいの認識です。ところが、われらが土肥先生がこんな興味深いツイートをしているのを見つけました。

詳しく解説していただきましょう。

 

用語を変えろというのは冗談だけど

passato remotoのremotoが「隔たった」の意であるというのは理解しておいて損はないように思います。今回は、遠過去の用法について理解するためのポイントについて解説してみたいと思います。

まず、遠過去というのは近過去と共に完了のアスペクトを表す形です。これは大雑把に言ってどちらもすでに完結した出来事を表すということなのですが、要するに遠過去と近過去は似たタイプの過去を表す形で、だからこそその使い分けが問題になるわけですね。

近過去と遠過去の違い

この使い分けについて、しばしば見かける理解が「遠過去は遠い過去、近過去は近い過去」というものです。要するに、「昔のことは遠過去、最近のことは近過去」ですね。実は、これ自体は間違ってるわけじゃありません。確かに傾向として遠過去は遠い過去を表すことが多いし、近過去は近い過去を表すことが多いです。

でも、これら二つの時制の使い分けの基準は、そこではありません。本当の基準によって使い分けられた結果、それぞれ遠い過去と近い過去に使われることが多いのです。本当の基準というのが何かというと、「現在と関わりのある出来事かどうか」です。近過去は過去において完結しているけれど、話し手にとってその結果や効果が発話の時点においても感じられる出来事に使います。遠過去は逆に、そうした効果が感じられない出来事ですね。これがわかりやすい例を我らがTreccani(https://www.treccani.it/enciclopedia/passato-remoto_(Enciclopedia-dell’Italiano)/)が挙げてくれているので、見てみましょう。

(1) Chiara visse a lungo a Roma.
(2) Chiara ha vissuto a lungo a Roma.

遠過去が使われている文(1)は「キアラはローマに長く住んでいた(今はもう住んでいない)」としか解釈できませんが、(2)は「キアラはローマに住んで長い(今も住んでいる)」と解釈することが可能です。遠過去が「現在と隔たった過去」であることがよくわかる例ですね。

こうして遠過去の性質が明らかになると、なぜこの時制が遠い過去に使われやすいのかもわかります。一般的にいって、昔のことであればあるほど現在とは関わりのない出来事だと感じられやすいからですね。「昨日雨が降った」みたいな出来事に比べて、「アリストテレスが紀元前4世紀に生まれた」みたいなものは隔たった出来事だと感じられやすく、したがって遠過去が使われやすいわけです。今回の文も、描写している出来事自体は2013年とその二年後の2015年の話ですよね。書き手は遠過去を使うことでこれを現在と切り離して描写しているのであって、大昔の出来事だというわけではありません。

使い分けには地域差がある

ところで、こうした説明を読むと、イタリア在住の方や頻繁にイタリア人と会話をする人ほど「それって本当なの?」と思われるかもしれません。実際にイタリア語で会話していてこのような使い分けを感じることができる機会って、実は少ないんですよね。それもそのはずで、実はこうした遠過去と近過去の使い分けを(話し言葉で)している人たちは、イタリア人の中でも少数派です。遠過去と近過去の使い分けには、顕著な地域差(variazione diatopica)があるのですね。

具体的には、北イタリアと中部イタリアの一部では遠過去の代わりに近過去が、南イタリアでは近過去の代わりに遠過去が使われる傾向にあります。じゃあ誰が今回説明したような遠過去と近過去の使い分けをしているのかというと、トスカーナの人たちですね。イタリア語がトスカーナ生まれであるというのはなんとなく聞いたことがある人も多いのではないでしょうか。この使い分けを実際にしている人はむしろ少数派であるにもかかわらず「イタリア語」の文法として我々のような学習者も知っておかなくてはいけないのは、こうした歴史的な経緯を背景にして、「トスカーナのことば」が今なお否定しがたい権威を持っていることと結びついていそうですね。

 

[+α]イタリア人とアニメ

今回の記事はアニメの話ですね。日本に興味のある外国人はかなりの割合で日本人にとっては懐かしいアニメが好きだったりするのに対して、好んで海外に出る日本人はだいたいその手のアニメに興味がないので趣味が合わないことが往々にしてあるわけですが、これはイタリアでもそうですね。僕はジブリすらほとんど見たことがないので、日本のアニメ文化について相手のほうがずっと詳しいという体験をよくしました。

ところで皆さん、Cristina D’Avenaという歌手をご存知でしょうか? 80年代を中心に、セーラームーンやキャプテン翼といった有名アニメのイタリア版主題歌を歌っていた歌手で、イタリアではよく知られている人です。とにかく色んなアニメの主題歌を担当しているので、興味があれば調べてみてください。(土肥)

 

◆引用箇所の語句と訳
Proprio al Lido nel 2013 dove si trovava per presentare la sua ultima opera “Si alza il vento”, Miyazaki annunciò il suo ritiro dall’attività ma due anni dopo tornò sui suoi passi e oggi, al traguardo degli 80 anni, il grande regista conferma attraverso il sito dello Studio Ghibli, l’avanzamento della lavorazione di un nuovo lungometraggio già in cantiere da tre anni, dal titolo “How do you live?”.

ritiro: 引退/tornare sui suoi passi: (発言などを)撤回する/al traguardo di: ~という節目にあって/regista: 映画監督/avanzamento: 進展、進行/lungometraggio: 長編映画/in cantiere: 製作段階に入っている

自身最後の作品となる『風立ちぬ』を発表するために来ていた、(金獅子賞を受賞したヴェネツィア国際映画祭の開催地である)まさにそのリド島で、宮崎は現役引退を発表したが、後に発言を撤回し、80歳を迎える今日、この偉大な監督はスタジオ・ジブリのウェブサイト上で3年前から制作を開始している新作長編映画『君たちはどう生きるか』の製作が進行中であることを認めている。

こちらの記事もおすすめ