Grammatica+  上級へのイタリア語

[第31回]外来語は複数形にならない?/札幌地裁「同性婚認めないのは違憲」②

前回に引き続き、札幌地裁が「同性婚を認めないのは違憲である」との判決を下したというニュースから。

La legge giapponese prevede che il matrimonio debba essere basato sul «reciproco consenso di entrambi i sessi» e per questo è stato sempre interpretato come un’unione tra un uomo e una donna. I partner delle persone omosessuali non hanno diritti sui figli della compagna o del compagno e non possono ereditare i loro beni.

Il Post, 17 Marzo 2021)

日本の法律では、結婚は「両性の合意に基いて」と定められており、そのためこれまでは男性と女性による婚姻であると解釈されてきた。同性愛者のパートナーは、相手の子供に対して権利を持たず、例えば財産の相続ができないのである。

 

外来語もGrammatica+おなじみのテーマ になりつつありますね!

I partner delle persone omosessualiのpartnerは定冠詞iを伴っていることからもわかるようにここでは複数名詞ですが、partnersとはなっていませんね。外来語(主に、比較的最近になってから導入された英語?)の名詞は常に単数形のままなのでしょうか。

 

まだまだ奥が深い外来語!

質問に対する答えはルールとしてはsìなんですけど、まずせっかくなので第1回では簡単に触れるにとどめていた点を扱いたいと思います。そもそも外国語由来の名詞というのは大きく二つに分けることができます。イタリア語のシステムの中に完全に入り込んでいてイタリア語本来の単語と同じように振る舞う語と、元となった言葉の形を残しているために特殊な性質を示す語ですね。一般的に「外来語」と言った時すぐに頭に浮かぶのはやはり後者で、こういう外来語のことをprestito integraleと言うのでしたね。ちなみに前者はprestito adattatoと呼んだりします。

それぞれの例としては、たとえばスペイン語cumplimentoに由来するcomplimento「ほめ言葉」に対して今回のような英語由来のpolicy「ポリシー」といったところでしょうか。こうしてみると、借りてくる先の言語が何なのかというのはどういう形でイタリア語の中で使われるのかに対してけっこうな影響力を持っていそうですよね。もちろん個別の語には個別の歴史と扱いがあるとはいえ、傾向としてはイタリア語と似ているほど、イタリア語本来の単語と同じように振る舞うprestito adattatoになりやすいです。

 

話者にとって何が透明か・不透明か

同時にこういう語ほどそもそも外来語であることが意識されなくなり(第26回でも出てきた、話者にとって不透明であるってやつですね)、いっそうイタリア語の中に溶け込んでいくわけです。この点に関して面白いのは我らが日本語から入った単語で、たとえばcachi「柿」の単数形としてcacoという形が使われることがあるのは有名な話ですよね。これは要するに、日本語とイタリア語が系統的には大きく離れているにもかかわらず音のシステムが似ているために、イタリア語として違和感なく受け入れられている好例ですね。外来語の綴りは元の言語と同じままというのがルールですが、しばしばkakiではなくcachiとイタリア語風に綴られるのもポイントです。

さて、こうした「話者たちにとって何が透明(trasparente)か=話者たちは自分が話している言語について何を知っているか」という観点は外来語の複数形について考える際にも重要であるように思います。まず上に挙げたcomplimentoみたいな語は、complimentiのように通常の複数形を作るわけですよね。これに対して、今回のpartnerのようなものはそもそも母音で終わらないこともあって、語末の母音を変えて複数形を作れないことが大半です。こういう場合は、単数と複数が同形になるというのがルールなわけですね。 一方で、英語をはじめとして他にもフランス語、スペイン語といった「メジャーな」言語から借りてきた語には、もう一つ重要な特徴があります。これらの言語では語尾に-sをつけて複数形を作るという事実がイタリア語話者たちにとっても明らかだということですね。

おそらくこのことと関連して、特に英語由来の語は書き言葉だと複数形に-sがついているのをちょくちょく目にします(ただこの場合は、イタリックにして外来語であることをわかりやすくすることが多い気がします)。また、こうしたprestito integraleが面白いのは、実は定着の度合いが高いほど複数形に-sがつく割合が減っていくことです。たとえばbarなんかはもっとも定着した外来語であると言っていいと思うのですが、複数形がbarsになることはありません。イタリア語本来の、「母音で終わらない名詞は無変化」に忠実に従うのですね。こうして見てみると、イタリア語の単語と同様に振る舞うprestito adattatoがそうではないprestito integraleよりもイタリア語に深く受け入れられているというよりは、外国語をイタリア語の中に受け入れるプロセスが二種類あるのだと思っておいたほうが良さそうですね。

 

[+α]イタリアと同性婚

前回の+αで国光くんが日本はG7の中で同性婚に関する法整備が最も遅れている国であると言及してくれましたが、イタリアも日本を除くと唯一異性カップルと同じ法律婚を同性カップルに認めていない国ですね。ちなみに同性カップルのためのパートナーシップ制度ができた時期そのものも日本を除いて最も遅く、2016年にようやく法整備されました(ドイツで法律婚が可能になったのが2017年ですが、ドイツではパートナーシップ制度自体は2001年からあったようです)。日本よりはマシだけどヨーロッパでは遅れている、女性の権利と同じ傾向ですね。

ちなみにシビルユニオンは基本的には法律婚カップルと同じ権利(と相互への義務)が得られるし、イタリアとしては歴史的快挙だったわけですが、当然ながら「平等である」というのは「全く同じ制度が適用される」ということ以外に絶対にあり得ないわけで、今やシビルユニオンしか同性カップルの選択肢がないことはやはり批判の的です。イタリアでシビルユニオンに関する議論が始まったのは1986年と言われていて、その実現には27年の歳月がかかったわけですが、本当に平等な法律婚が実現されるのはまだまだ先になりそうです。(土肥)

 

 

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