Grammatica+  上級へのイタリア語

[第1回]外来語の「性」/”Ma che vuoi?”のemoji①

このブログはイタリア語を学ぶ人たちの中でも「(中・)上級」を目指す人たちに向けて、文法事項(+文化的背景など)を解説していきます。中途半端にイタリア語の学習経験のある田中が、イタリア語を専門に研究している土肥篤さんに質問し、解説してもらおう、という形式で、時事ニュースを素材にして進めていきます。

初回の今回は、アップルのiOSアップデート(iOS 14.2)で新しい絵文字が追加されたというニュースから。日本ではゴキブリの絵文字が追加されたことがもっぱら話題になっていましたが、一方イタリアでは、この国では非常になじみ深いあるジェスチャーの絵文字が加わったことで盛り上がっていました。

タイトルと記事本文の冒頭2文を引用します。

Su iPhone l’emoji più italiana: “Ma che vuoi?”

Firma italiana sull’Iphone grazie a un nuovo simbolo. L’iPhone si prepara infatti ad accogliere 117 nuove emoji: l’aggiornamento del sistema operativo, iOS 14.2, sarà disponibile già in questo mese d’ottobre.

la Repubblica, 01 Ottobre 2020)

firma:特徴づけるもの、トレードマーク/prepararsi a:~の準備をする、用意をする/accogliere:~を迎え入れる/aggiornamento:改訂、更新/disponibile:利用可能な

 

iPhoneで最もイタリア的な絵文字「で、どうしたいの?」
新しい記号の登場によってiPhoneにイタリアのトレードマーク(が加わる)iPhoneは実は、117個の新しい絵文字を追加する。iOS14.2へのOS更新はすでにこの10月にも利用可能になる予定だ。

ここには2つの外来語が登場します。

英語のiPhoneと日本語のemojiです。
1文目にsull’Iphone(sull’iPhoneのタイポですね)、2文目にL’iPhoneとあって、これだけだと男性名詞として扱われているのか女性名詞として扱われているのかわからないですね。一方emojiはl’emoji più italiana, そして117 nuove emojiを見てわかるように女性名詞として扱われている。今回はこの「イタリア語における外来語の性」がテーマです。

さて、ここから土肥くんに質問です。
・外来語の名詞の「性」はどうやってきまるのか。何らかの法則はあるのか。
・法則があるのだとして、それは外国人話者もしっかり意識した方がいいのだろうか。

 

土肥篤が文法解説!

イタリア語学では他の言語にルーツのある言葉を一般にprestitoとかforestierismoというんだけど、こういう外国語の形をそのまま保ってイタリア語の文章の中で使われているものをprestito integraleと言いますね。イタリア語の名詞はだいたい語尾の母音で性の予想がつくわけだけど、特に数の多い英語から取り入れた言葉(anglismoと呼ばれたりします)は母音で終わらないことも多いので、どちらの性で扱っていいのかわからなくなってしまうわけですね。これ、実は外国語としての学習者に特有の問題ではなくて、イタリア語のネイティブスピーカーもしばしば直面する問題のようです。実際、最新の外来語の一つであるcovid-19について、男性名詞とするか女性名詞とするかでちょっとした議論があったりしました(https://accademiadellacrusca.it/it/consulenza/il-covid19-o-la-covid19/2787)。外来語をどちらの性で扱うかというのはネイティブであればぱっと見てわかるというようなものではなくて、「女性名詞にすべきと言っている(権威のある)人がいる」とか、「みんなが女性名詞として使ってる」とかいった、多分に社会的な要因で決まるわけですね。

とはいえ、学習者としてはある程度の指標がほしいんですよね。一応、外来語の性はしばしばその単語の意味によって決まっていて、どうやらこれが最も基本的な法則であると言ってよさそうです。「意味によって決まる」というのは、要するにイタリア語に訳すとどうなるかに従って決まるということですね。たとえば、Brexitはexitがイタリア語でuscitaという女性名詞に対応しているために女性名詞だし、mangaはイタリアでいうとfumettiなので、男性名詞ですね。本文に出てくるiPhoneは、「携帯電話」や「電話」が男性名詞のtelefonoないしcellulareに相当するために、男性名詞として扱われるのが普通です。まあ、我々学習者が実際に外来語の性を予想しないといけない時にこれがどの程度役に立つかは怪しいけど……。

ところで、外来語というのは常に綺麗にイタリア語に訳せるわけではないし、そもそもイタリア語に対応物がないものもありますよね。そういう場合にはどうなるのでしょうか。実は、「特に理由がなければ、男性名詞」という規則があります。これはイタリア語に存在する一般的な文法規則で、言語学では男性が「無標の性(genere non marcato)」であるという風に表現されます。「無標の」というのは「特にどちらかを選ぶ理由がなかったり、どちらも選ぶ理由がある時に選ばれるもの」くらいに理解すればいいと思います。たとえば男と女の両方を含む複数の人間に言及する時に男性複数形が使われるのは、これが理由です。したがって、正確にいえば、外来語をイタリア語の文に組み入れるにあたって「男性か女性かが選ばれる」のではないです。「女性名詞にすべきかどうかを検討して、そうでなければ自動的に男性名詞になる」のです。こうした言語の中にある性の不均衡は、もちろんしばしば研究や批判の対象になっています(https://www.treccani.it/magazine/lingua_italiana/speciali/femminile/Robustelli.html)。

本文に戻ると、この記事で「女性名詞」として使われているemojiは、実は男性名詞として使われることの方が多いです。女性名詞にする背景には、(ほとんど)同じ意味でemojiよりも前から女性名詞として普及しているemoticonという語や、それよりも前から存在していてemoticonの「イタリア語訳」であるfaccinaが女性名詞であることが理由としてありそうですね。一方、男性名詞として使われる理由は上述の「無標の性」ルールが強く影響していそうです。このように、外来語の性はネイティブスピーカーの間ですら意見が割れます。我々学習者としては、「辞書を確認する」という基本を大事にしつつ、「それでも人によっては辞書と違う使い方をしてくる」ということを頭に入れておくのが重要かもしれません。

【+α】絵文字の使い方はイタリアと日本でそんなに変わらない

絵文字はもちろんイタリアでも広く普及していて、SNSやチャットアプリでのやりとりで見ない日はないわけですが、その使い方も少なくとも日本とイタリアでは大きく変わらない感じがしますね。これはむしろ、日本人の絵文字の使い方が世界に近くなってきたということだという気がします。ところで僕の友達にはチャット上で誰かが面白いことを言うと「草」くらいのノリで💥の絵文字を使う人がいるのですが、たまに僕が書いた冗談にこの絵文字を2〜3個くれたりすると自己肯定感が激しく高まるのを感じます。今はインターネットなんかを使ってイタリア人とメッセージのやりとりをするのも容易だし、ぜひやってみてほしいですね。(土肥)

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