第・30・回! 読んでくださっている皆さま、ありがとうございます!
性差による不平等はGrammatica+でおなじみのテーマになりつつありますね。今回は、3月17日に札幌地裁(武部知子裁判長)が「同性婚を認めないのは違憲である」との判決を下した、というニュース。地方裁の判決でもこうして国際ニュースになる、それほど画期的なことだということですね。
Mercoledì un tribunale giapponese ha stabilito per la prima volta che le coppie omosessuali hanno il diritto costituzionale di sposarsi. I giudici hanno detto che la sessualità, così come la razza e il genere, non è una questione di preferenza individuale e che il rifiuto di garantire le licenze di matrimonio alle persone omosessuali viola la premessa della Costituzione di assicurare la parità dei diritti derivanti dal matrimonio. La sentenza di oggi ha così stabilito che i «benefici legali previsti dal matrimonio debbano essere riconosciuti sia agli omosessuali che agli eterosessuali».
(Il Post, 17 Marzo 2021)
水曜日(3月17日)、日本のある裁判所が初めて、同性愛者のカップルには憲法によって保障される結婚する権利があると定めた。判事は、性的指向は人種や性別と同じく個人の嗜好とは言えず、同性愛者の婚姻に許可を与えないことは婚姻に基づく権利の平等を確保するという憲法の条項に違反していると述べた。今日の判決はこれを受け 、「結婚によって得られる法的権利は同性愛者にも異性愛者と同様に認められなければならない」と定めた。
今回のメインテーマはずばりcosìの発音です。cosìの「s」は濁るのか濁らないのか。これはcasaのsなんかと同じ問題として考えていいのでしょうか。
このブログでする文法解説がかなり文の構造の話に寄っていて音声の話がほぼないのは要するに僕の専門のせいなわけですけど、sの発音の話くらいはしておいても損はないんじゃないかということで今回です。イタリア語ではsの発音が二種類あって、清音の(sorda)[s]と濁音の(sonora)[z]ですね。発音記号で書かれてもわからないでしょという方のために(本当はやるべきではないのですが)カタカナで書くと、濁らないスと濁るズです。ちなみに濁るsの音ってzじゃないの?という方もいるかもしれませんが、イタリア語のzは清音の[ts]と濁音の[dz]なのでどちらも全く別の音ですね。こっちはあえてカタカナで書くならツとヅです。で、今回のテーマはsで書いてある音をどちらで発音したらいいのかということですね。sの発音を決める要因は二つあって、前後の音と地域です。以下、一つずつ見ていくことにします。
まず前後の音については、基本的にかなりはっきりしています。というのも、sが濁るケースというのは二種類しかないからです。このうち一個は必ず濁るケースで、もう一個は濁ったり濁らなかったりします。その他の場合には必ず清音なので、要するにsが濁るか濁らないかを判断しなければいけないのはこの後者のケースの場合だけなのですね。これは具体的にはsの前も後も母音のケース(s intervocalica)なのですが、まずはクルスカ学会がわかりやすくまとめてくれているページ(https://accademiadellacrusca.it/it/consulenza/sulla-pronuncia-della-s/32)を参考に、それ以外の場合について簡単に見てみます。
必ず清音のsになる / 必ず濁音のsになるケース
必ず清音のsで発音されるケースは、(1)単語の頭で、次の音が母音(seta)、(2)sが二連続になっている(cassa)、(3)清音の子音が後にくる(scuola)、(4)子音が前にくる(falso)の4パターンです。これらの場合には、ありがたいことに例外はありません。次に、必ず濁音のsで発音されるケースは上にも書いた通り一種類しかないんでしたね。具体的には、濁音の子音が後に来るケースです(sbatto)。
母音に挟まれたs
さて、sが濁音か清音かが問題になるのは母音に挟まれた時で、今回の文に出てくるcosìもそのパターンというわけですね。もうこれはどうしようもないので先に言ってしまうと、この場合のsの発音に法則性はありません。「濁ったり濁らなかったりする」としか言いようがないのです。イタリア語として正しい発音をしたいと思う人は、いちいち辞書で確認するしかないですね。辞書ではsの発音は必ず示されていて、たとえば小学館の伊和中辞典では濁るsには下に黒丸がつけられています。
地域差がある
といっても、「イタリア語として正しい発音をする」ということにはあんまり意味がないというのが僕の持論で、これはsの発音を決める二つ目の要因、すなわち地域と関係しています。sの発音には、顕著な地域差があるのですね。地域差について語り出すとたとえば上で「常に清音」としたケースでも濁る地域があったりして際限がないのですが、母音に挟まれたsに話を絞ると、北部では常に濁音で、中部〜南部では常に清音で発音される傾向にあります。母音に挟まれたsというのはどちらの音かが揺れる唯一のケースなのだから、要するに大部分のイタリア語話者はsが清音か濁音かの判断なんてしてないんですね。前後の音よって、機械的にどちらかの音で発音しています。このことを、[s]と[z]は異音(allofono)であると言います。
じゃあなんでイタリア語では濁ったり濁らなかったりするのかというと、第16回で扱った遠過去と同じですね。トスカーナの人たちが、母音に挟まれたsを単語によって濁音で発音したり清音で発音したりしているのです。トスカーナでは時には綴りがまったく同じでもsの発音によって意味が変わってしまうものすらあります。たとえば、濁らないsのBrindisi「(町の)ブリンディシ」と濁るsのbrindisi「乾杯」などです。イタリア語はトスカーナのことばを元にして作られているために、トスカーナで区別する二つのsを区別するということになっているのですね。そしてイタリア語を話す人たちはトスカーナの人たちだけではないために、実際にはほとんどの場合においてそんな区別は存在しないというわけです。
ちなみにこれに関連して興味深いのが、実はトスカーナにおいても母音に挟まれたsは濁音で統一されつつあるということですね。まさに国光くんが挙げてくれたcasaがその代表例で、本来は清音のsを使う単語なのですが今や濁音で発音されることの方が多いようです。これは要するに北イタリアのことばに影響されているということで、北イタリアのことばがその文化的・経済的な威信を背景に、歴史的な威信を持つトスカーナのことば(そして、イタリア語)に強い影響力を持っていることを表していそうです。
清音の(sorda)[s]と濁音の(sonora)[z]の見分け方
●必ず清音のsで発音されるケース
(1)単語の頭で、次の音が母音(seta)
(2)sが二連続になっている(cassa)
(3)清音の子音が後にくる(scuola)
(4)子音が前にくる(falso)
●必ず濁音のsで発音されるケース
・濁音の子音が後に来る(sbatto)
●単語によってsが濁音か清音か分かれるケース
・母音に挟まれている
⇒この場合のsの発音に法則性はない
[+α]同性婚とバチカン、そして日本
この札幌地裁の判決が出る二日前の3月15日、同じく「同性婚」を巡る非常に大きな声名がバチカン(ローマ教皇庁)から発せられました。曰く、「同性婚は選択肢の一つではあるが、神の意図に即したものと見なすことはできない」、したがって「祝福することはできない」と。現教皇フランチェスコはこれまで、歴代教皇と比べれば同性愛に肯定的な見解を示していたため、今回の声名はLGBTやアライからは大きな落胆をもって迎えられました。
とはいえ、「やっぱりカトリックは保守的なんだね」と呆れてみせる資格が私たち日本人にあるかどうかは疑問です。なぜなら、日本では同性愛者に対し一部の自治体がパートナーシップ制度を認めているにとどまるのに対し、イタリアでは国として法的にパートナーシップ制度を整備しているからです(Unione civile, 2016年施行)。今回引用した記事には、次のような一文もありました。
Il Giappone è l’unico tra i paesi del G7 a non riconoscere l’unione tra persone omosessuali.(同上)(日本はG7の中で同性愛者間の婚姻(またはそれに準ずる法的制度)を認めていない唯一の国である。)
(田中)
記事:Il Giappone ha fatto un passo avanti sui matrimoni gay
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