Grammatica+  上級へのイタリア語

[第10回]代名自動詞/キッズYouTuberはジャンクフードを食べる①

(2022/1/27改訂)

今回は子供のYouTuberについてのニュース。膨大な数のチャンネル登録者数・視聴者数を抱える人気子供YouTuberが、配信動画内でジャンクフードや不健康な食品を頻繁に口にすることが、視聴者である子供たちに悪影響を与えている、という話です。

Il Fatto Quotidianoに掲載されたこの記事では、米国で実施された実態調査を紹介したあと、同様の問題はイタリアでも見られるものだと指摘されています。

La ricerca si è concentrata sui canali statunitensi, ma la tendenza a mostrare alimenti poco salutari è presente anche fra i creatori italiani: filmati con bambini in cui i protagonisti mangiano junk food ottengono migliaia di views, mentre il problema dell’obesità infantile si aggrava in tutto l’Occidente.

[訳]この調査は米国のチャンネルに(        )だが、あまり健康的でない食品が動画内に映るという傾向はイタリア人クリエイターの間にも見られる。メインの出演者がジャンクフードを食べているような子供の動画が何百万という視聴者を獲得しているのと同時に、子供の肥満問題は西洋全体で(        )。

 

siを伴う動詞が2つ出てきます

前回、動詞とセットで使われるsi、すなわち再帰動詞のsi、受け身のsi、非人称のsiについて学びました。この2つもそのいずれかに分類できるのでしょうか。一つ気付くのは、この2語を辞書で引くと、concentrarsi、aggravarsiの形で載っているということです。つまり、受け身や非人称を表すためにsiがついているのではないように思えます。また、意味的に再帰を表しているのでもないような気がします。どうなのでしょうか。

 

再帰動詞も色々なのです

再帰動詞シリーズの続きですね。前回は受け身や非人称がもはや再帰動詞とは決定的に異なる特徴を持つことを見たわけですが、今回は再帰動詞の中にも様々な違いがあるということを見てみたいと思います。

まず、再帰動詞というのはその名の通り「再帰している」、すなわち動詞が表す出来事の効果が何かしらの形で主語の表す対象に帰ってきている動詞のことですよね。これが最もわかりやすいのが、他動詞の直接目的語が主語と一致している例文(1)のようなパターンだと思います。ちなみに、間接目的語が主語と一致する例文(2)のパターンもあって、この二つはもっとも典型的な再帰動詞だと言えそうです。

(1) Gianni si guarda allo specchio.
「ジャンニは自分自身を鏡で見る。」

(2) Ha deciso di regalarsi una macchina. (Salvi & Vanelli 2004: 203)
「(彼/彼女は)自分自身に車を贈ることに決めた。」

前回は、話を簡単にするために例文(1)タイプのものを再帰動詞の代表として出しました。また、次の例文(3)のようないわゆる「相互的用法」も、この延長線上であると考えてよさそうです。

(3) Gianni e Cristina si amano.
「ジャンニとクリスティーナはお互いを愛している。」

次に、svegliarsi「起きる、目覚める」という、これまたよく見る再帰動詞について考えてみます。この語はしばしば「自分自身を起こす → 起きる」というような説明をされていて、例文(1)のguardarsiの仲間であるかのように扱われていますが、これって本当でしょうか? だって皆さん、毎朝自分自身を起こしていますか? 僕は目覚ましとか、周りの音とか、差し込んでくる光とかで起きます。そもそも、眠っている人というのは眠っているのだから、自分自身を含めて誰かを起こしたりできません。こうして考えると、はっきりと自分自身に対して行為が再帰しているguardarsiのような動詞と、svegliarsiのような動詞は用法が違うのです。よくよく検討してみると、svegliarsiのような「再帰しているようでしていない」再帰動詞は思ったよりも数が多く、むしろguardarsiのような典型的再帰動詞よりも多いように思われます。

では、svegliarsiのような動詞における再帰代名詞はどんな役割を持っているのでしょうか。こうした動詞の典型的な特徴の一つに、しばしば再帰代名詞のない他動詞と再帰代名詞がついた自動詞が対になっているというものがあります。svegliare「起こす」に対してsvegliarsi「起きる」ですね。実は、今回の文に出てくるconcentrarsiとaggravarsiは、どちらもこのパターンです。concentrare「集める」に対してconcentrarsi「集まる(そこから転じて、集中する)」と、aggravare「重くする」に対してaggravarsi「重くなる」ですね。他動詞を再帰動詞の形にすることで、自動詞にすることができるのです。「意味的に再帰を表しているのではない」という国光くんの観察は、なかなか鋭いですね。

さて、このことから、concentrarsiやaggravarsiのような動詞は「代名自動詞」verbo intransitivo pronominaleと呼ばれることがあります。こうして考えると、代名自動詞における再帰代名詞の役割は「この動詞を自動詞として扱え」という指示を出すことですね。

こうした再帰代名詞の役割は、受け身のsiや非人称のsiにおけるsiの役割に似ていますよね。受け身のsiは「この文を受け身の構文として扱え」、非人称は「この文を非人称の構文として扱え」という指示を出すのがその機能でした。一方で、代名自動詞が三人称に限らず一人称や二人称で使える(mi sveglio, ti svegli…)ことを考えると、代名自動詞における再帰代名詞は受け身のsiや非人称のsiほどには代名詞としての性質を失っていないように思えます。実際、代名自動詞において、再帰代名詞は「動詞に対して何かしらの形でコミットしている存在を示す(そして、それが主語と一致している)」と説明されることがあります。この説明はなかなか苦しいと個人的には思いますが、動詞を中心とした役割構造から完全に外れている受け身のsiや非人称のsiに比べると、代名自動詞を作る再帰代名詞は「再帰」の性質こそかなり薄いものの、この役割構造にギリギリで引っかかっている存在と言ってもよさそうですね。

ちなみに、実はだいたいの辞書で典型的再帰動詞と代名自動詞はきちんと区別されています。小学館の伊和中辞典では前者に[再]、後者に[代]と印がついています。また、伊伊辞典でも前者にはrifl.、後者にはintr. pron.等と書いてあったりしますね。ただ、個別の動詞をどちらとして扱うかは意見が分かれていたりします。暇があれば、同じ動詞を複数の辞書で見てみるのも面白いかもしれません。

[+α]世界一稼ぐYouTuber、Ryan Kaji

今回引用した元記事のテーマは、子供のYouTuberが動画内で不健康な食べ物を食べていることが、それを視聴する子供たちの食生活に悪影響を与えている可能性についてでした。その代表格として記事の中で挙げられているKidfluencerがRyan Kajiくんです。9歳(当時)のRyanくんは3年連続で「世界で最も稼ぐYouTuber」(Forbes誌発表)になり、2020年の収益は2,950万ドル(約30億5,500万円)にもなるらしいです(※下に注記あり)。巨人の菅野智之がメジャー入りを断念し巨人残留を発表して史上最高額となる年俸8億円で契約、というのが話題になっていましたが、いやはや……。ところで、Ryanくんのお父さんは日本出身です。

日本人の父とベトナム系アメリカ人の母を両親に持ち、現在はアメリカ・テキサス州に住んでいるRyanくん。もともとは日本やベトナムなど世界に点在する家族にRyanくんの成長する姿を見せるために2015年から『YouTube』に動画を投稿し始め、その後おもちゃのレビューを行う“Ryan Toys Reviewシリーズを行ったところ人気が爆発。現在では日本語版やスペイン語版など9つのチャンネルを運営し、総チャンネル登録者数は4,100万人を超える世界トップクラスのYouTuberとなった。
(HYPEBEAST「9歳児 ライアン・カジが“世界で最も稼ぐYouTuber”に3年連続で輝く」)

※2021年には世界7位に転落していますが、それでも2700万ドル(日本円で約30億円)の収益を上げているそうです2021最も稼いだユーチューバー発表:1位は約62億!7歳女の子が6位に。すごい。(田中)

 

引用箇所の語句と訳

La ricerca si è concentrata sui canali statunitensi, ma la tendenza a mostrare alimenti poco salutari è presente anche fra i creatori italiani: filmati con bambini in cui i protagonisti mangiano junk food ottengono migliaia di views, mentre il problema dell’obesità infantile si aggrava in tutto l’Occidente.

[語句]canale: チャンネル/statunitense: 米国の/alimento: 栄養/filmato: ビデオ映像

[訳]この調査は米国のチャンネルに焦点を当てたものだが、あまり健康的でない食品が動画内に映るという傾向はイタリア人クリエイターの間にも見られる。メインの出演者がジャンクフードを食べているような子供の動画が何百万という視聴者を獲得しているのと同時に、子供の肥満問題は西洋全体で深刻化しているのである。

 

 

こちらの記事もおすすめ