Grammatica+  上級へのイタリア語

[第8回]入れ子構造の文/ファッション大手CEO「妻のキャリア優先で辞任」

(2021/12/23改訂)

今回取り上げるのは、Zalando: Ritter lascia per dare “priorità” alla carriera della moglie(ザランドゥ:リッターが「妻のキャリアを優先」するために辞任)という記事(2020年12月8日)です。Zalandoというのは衣料品のネット通販を手掛けるドイツの企業で、欧州では最大手。その大企業の共同CEOであるルービン・リッター氏が辞任を発表した、でその理由が「妻のキャリアを優先するため(=恐らくはルービン・リッター氏が子供の面倒を見る時間を増やすため)」だということがニュースになっているのです。

Rai Newsはこれを受け、次のように書いています。

Una notizia che di per sé non farebbe rumore, se non fosse che a esserne protagonista è un uomo.

Rai News, 08 dicembre 2020)

 

意味はなんとなくわかる。

「それ自体では話題にならなかっただろうニュースだ、もしこのニュースの主人公が男性でなかったとしたら」という仮定の文。esserneのneがdella notiziaであることも分かる。逆に言えば、ここまで分かっているにもかかわらず、se non fosse以下の構文がぜんっぜん分からない。土肥くん、お願いします。

 

なかなかに複雑な構文ですが

意味自体はその通りで、文脈からも明らかですよね。結論から言えば、「従属節の中にさらに従属節というのを繰り返して入れ子構造になっている文」なのですが、詳しく見てみたいと思います。

まず、文というのは動詞を中心として複数の要素(主語とか、目的語とか)で成り立っているわけですが、これらの要素はそれ自体が一つの単語ではなく文であることがあります。こうした、「文の一要素である文」のことを従属節(frase subordinata)と言います。従属節はいわば、文の中に埋め込まれた文なのですね。従属節はしばしば、独立した文ではなく埋め込まれた文なのだということがわかるように特定の語を伴って現れます。例文を見てみましょう。わかりやすくするために、従属節を角かっこでくくって、従属節であることを示す語に下線を引いてみます。

私は、[太郎くんの顔色が悪いこと]に気づいた。

イタリア語では、たとえば次のようなものです。従属節に現れる動詞は活用した形だったり、原形のままだったりします。また、従属節であることを示す語は、cheやdiなどいくつかあります。対応する日本語訳にも従属節が現れていますね。

Maria crede [che Giovanni abbia perso il treno].
「マリアは[ジョヴァンニが電車を逃した]思っている。」
Giovanni spera [di arrivare in tempo].
「ジョヴァンニは[遅れずに到着したい]願っている。」

従属節が持つ重要な特性の一つに、中にさらに別の従属節を埋め込むことができるというものがあります。ヒトの話す言語ならどれでも、こうしていくつも文を埋め込んで無限に長い文を作ることができます。マザーグースには「これはジャックが建てた家にある麦芽を食べたネズミを殺したネコ……」と続いていく長い文がありますが、これも従属節の中に従属節を埋め込むという操作を繰り返した結果というわけですね。ヒトが話す言語が持つこうした特徴のことを、反復性(ricorsività)と言います。

 

入れ子構造を分解

さて、問題の文に戻ります。冒頭で言ったように、この文は従属節の中にさらに従属節を埋め込んで、さらにその中に埋め込む……という操作を繰り返した入れ子構造をしています。構造がわかるように、上の例文と同じように角かっこと下線をつけてみます。さらに、より外側にある従属節から順番に番号もつけてみます。

Una notizia [1 che di per sé non farebbe rumore, [2 se non fosse [3 che [4 a esserne protagonista] è un uomo]]].

一番外側の埋め込まれていない文、すなわち「主節」(frase principale)から見てみます。特に動詞がなく名詞だけがぽんと置かれていますが、とりあえずこれはessereが省略されていると考えることにしましょう。“È una notizia.”「ニュースである」という文で、このニュースという語をche以下の従属節1が修飾していますね。こういう従属節のことを、関係詞節(frase relativa)と言います。

次に、どういうニュースであるのかを知るために従属節1の中を見てみると、「それ自体は話題にならないであろう」とあって、その後にseで始まる従属節2が続きます。ということは、「それ自体が話題にならない」というのは、se以下に続く条件が満たされた場合に起こることであるようです。条件を述べる文なので、従属節2は条件節(protasiと言います。

何が条件なのかを見るために従属節2を見てみると、non fosseとあって、すぐにcheに導かれた従属節3が続きます。essere che 〜というのはある種の強調構文で、日本語の「のだ」と対応すると言われることがあります。この場合にはnonがあるので、「〜なのではない」と言っているのですね。

さて、だいぶ深くまでたどり着きましたが、何なのではないのかを見るために従属節3の中を見ます。今回はすぐに従属節4が始まって、その後で従属節3の本体が来ていますね。このように、従属節は埋め込まれた文の中で様々な位置に現れます。従属節3の構造は”a + 動詞の原形 è 〜”となっていて、これは「(a以下の内容)するのが〜」という表現です。従属節4は、essereを使った文の主語(frase soggettiva)ですね。何をするのが男であるのかというと、従属節4はそれ自体がまたしてもessereを使った文になっていて、「その(=ニュースの)主人公であること」ですね。

最後に、以上を意識して日本語の文に直訳してみると、同様に四つの従属節が現れることを見てみます。従属節1には従属節であることを示すための語がありませんが、これは文自体が名詞「ニュース」の前に置かれることで関係詞節であることを示しているからですね。

[1 [2 [3 もし[4 その主人公でいる]が男性な]ではないなら]、話題にならなかったであろう]ニュースだ。

 

[+α]ニュース内容に興味を持った方におすすめの記事

さて、今回は本文が長いので「+α」はさらっと。Zalandoとルービン・リッターがまず何?そして誰?と思った方がたくさんいると思います。興味のある方は、BUSINESS INSIDERの「ヨーロッパ最大のファッションサイトのCEO、妻のキャリアを優先するために退任」をぜひお読みください。ちなみに、この記事の関連記事としてサジェストされているのが「政治家の妻や夫に”新時代”が到来? アメリカでは”次期大統領”の妻が仕事を続け、”次期副大統領”の夫が仕事を辞めようとしている」で、これはまさに前回触れたジル・バイデンさんのこと(など)ですね。意図せずして類似テーマを続けて扱っていました。(田中)

 

引用箇所の語句と訳

Una notizia che di per sé non farebbe rumore, se non fosse che a esserne protagonista è un uomo.

[語句]di per sé: それ自体としては/fare rumore: 世間を騒がせる/protagonista: 主人公

[(直)訳]それ自体では話題にならなかっただろうニュースだ。このニュースの主人公であるのが男性というわけでなかったら。

元記事はこちら▼
Zalando: Ritter lascia per dare “priorità” alla carriera della moglie

 

 

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