Grammatica+  上級へのイタリア語

[第36回]一致/イタリア、市民権付与の数でEU内で第2の国に①

2019年、約70万人の外国人がEU域内の国で市民権を獲得し、その内訳を見てみると、イタリアがドイツに次いで2番目に多かった、というニュースです。

La maggior parte delle nuove cittadinanze sono state concesse dalla Germania (132 mila, 19% del totale dell’Ue), Italia (127 mila, 18%), Francia (109.800, 16%), Spagna (99 mila, 14%) e Svezia (64.200, 9%) che rappresentano il 75% delle nuove cittadinanze concesse nell’Ue nel 2019.   

AGI, 15 marzo 2021)

新たな市民権の大部分は、ドイツ(13万2000人、EUの合計の19%)、イタリア(12万7000人、18%)、フランス(略)、スペイン(略)、スウェーデン(略)によって付与された。これらの国々が2019年にEU域内で付与された新たな市民権の75%を占めている。

cittadinanza: 市民権/concedere: ~を授ける、授与する

おや?っと思ったのは

マーカーを引いた第一文、述語動詞がsono state concesseの形になっており、主語が女性名詞の複数形であることを示しています。主語はLa maggior parte delle nuove cittadinanzeですが、ここでの動詞はLa maggior parteではなくle nuove cittadinanzeに性・数を一致させているということになります。どういう場合にこういうことが起こるのでしょうか。

 

特殊な一致の代表格ですね

教科書なら第一課に書いてあるようなことですが、イタリア語では動詞は主語の人称と数に一致して形が変わるわけですよね。この時、だいたいの文では「この文の主語は何か」ということは別に問題にならないわけですが、ごくたまに「主語」として解釈し得る要素が複数あって、かつそれらがお互いに異なる特徴を持つとこういうことが起きるわけですね。

今回の文のように、動詞が(直観的に)文法上の主語になっている名詞ではなく、その名詞を含む塊が実質的に指しているものと一致することを、意味による一致(concordanza a senso)と呼ぶことがあります。今回のように実質的に指しているもの(nuove cittadinanze)の一部を取り出すタイプの表現は、意味による一致が起こる典型的なケースですね。他に同じようなことが起こる表現に、il resto diとかuna parte diとかがあります。また意味による一致は義務的ではなく、La maggior parte delle nuove cittadinanze è stata concessa.も、問題のない文です。ちなみに規範的観点からは意味による一致は避けるべきという人もいますが、少なくとも話し言葉や固くない書き言葉ではかなり頻繁に使われるし、我々学習者が使っても問題ないでしょう。

 

「意味による一致」を掘り下げる

さて、これだけではつまらないので、「意味による一致」についてもう少し掘り下げてみたいと思います。まず、先ほど「動詞は主語の人称と数に一致する」と書きましたが、ここで言う「主語」がなんなのかを考えてみます。イタリア語では節が主語になったりできますが(第19回のsembrareとか)、とりあえず名詞句の主語に話を絞ることにします。名詞句というのは、名詞を中心として規則を持って並んだ語の塊で、それ全体が一つの名詞のように振る舞うもののことでしたね。単体の名詞(たとえば、Gianniとか)も名詞句の一種ですが、ほとんどの名詞には少なくとも冠詞がつくことを考えれば(le meleとか)、名詞句はだいたいが二つ以上の語の連続でできていますね。

繰り返しですが、名詞句というのはその定義上ひとつの名詞を中心として構成されていて、その名詞の性質が名詞句全体の性質に反映されます。この時、句の中心となっている要素のことを主要部(testa)と言います。名詞句は、名詞を主要部とした句ですね。たとえば、第27回でも見た次の文では、主要部amiciが三人称・男性・複数形であるために、長い名詞句Gli amici dei quali ti ho parlato全体が一つの三人称・男性・複数形の名詞として振る舞うわけです。動詞arrivareが三人称複数形になっているし、試しに動詞以降をessere+simpaticoに変えてみても、やっぱりamiciに合わせて変化しますね。

[名詞句 Gli [主要部 amici] dei quali ti ho parlato] arriveranno domani.
君に話した友達は明日着く。

[名詞句 Gli [主要部 amici] dei quali ti ho parlato] sono simpatici.
君に話した友達は感じがいい。

したがって、正確にいえば動詞は主語になっている名詞句の主要部と一致するのですね。ここで今回の文に戻ります。名詞句La maggior parte delle nuove cittadinanzeの主要部ってどの名詞でしょうか? この質問に対する答えがparteとcittadinanzeの二通りあるから、出来上がる文も二通りあるのです。なんで答えが二通りあるのかと言うと、意味による一致を引き起こす一連の表現は、冠詞なんかと同様に名詞句において名詞を前から修飾する、限定詞(第25回)になることができるからです。

これはつまり、今回の文の主語になっている名詞句の構造は、次のAのようになっているということですね。一方で、意味による一致をしないBの構造も許容されます。こちらの場合には、cittadinanzeは主要部ではなく、主要部parteを後ろから修飾する前置詞句の一部ですね。

A [名詞句 [限定詞 La maggior parte delle] nuove [主要部 cittadinanze]] → sono state concesse

B [名詞句 La maggior [主要部 parte] [前置詞句 delle nuove cittadinanze]] → è stata concessa

こう考えると、「意味による一致」などと呼ばれていますが、一致が起こるメカニズム自体はどちらの場合でも同じですね。名詞句がとることのできる構造のバリエーションの問題だと言うことができそうです。

 

[+α]おすすめ本のご紹介『イタリア文化55のキーワード』

今回のニュースはイタリアの市民権を得た人の数についてでしたが、そもそもイタリアにおいて「移民」というのは非常に大きな問題の1つです。現代において「イタリア」と「移民」という2つのキーワードを並べた際に思い浮かぶのは、おそらく小さなボートに乗り込んで命がけで海を渡ってくる外国人たちの姿かもしれませんが、イタリアはその国家統一から比較的最近まで、もっぱら移民を送り出す側の国でした。戦後、急速な経済成長を遂げたイタリアにおいて、出ていく移民(emmigrato)の数を入ってくる移民(immigrato)の数が上回るようになるのは1970年代半ばのことです。

移民の受け入れ国となったイタリアですが、2000年代になると、再び国外への流出が増え出します。若年層の失業率の高さなどが原因ですね。

さて、「イタリアと移民」というのはそれだけで本一冊(というかそれ以上?)になる大きなテーマなので、門外漢である私(田中)にできることといえば、その概観をつかむのにぴったりの本を紹介することくらいです。

こちらの『イタリア文化55のキーワード』はミネルヴァ書房の「世界文化シリーズ」のイタリア編ですが、55のキーワードを元に、多彩な顔ぶれの研究者たちがイタリア文化を紹介していくという趣旨の本で、クオリティーが高く、かつ手軽に手に取って読める本となっています。

その面白さをお伝えすべく、「52 移民問題–「ヴクンプラ」からボートピープルまで」という節(この節は栗原俊秀氏が執筆)から一カ所だけ引用してみます。

ここで忘れずに指摘しておきたいのは、今日のイタリアで移民たちが従事している労働の多くが、「かつて大量移民の時代にイタリア人移民が経験した職種とかなり重なる」(北村暁夫)という歴史的事実である。外国人労働者はイタリア人にとって、「他者」として簡単に片付けられない、自らの過去を映し出す鏡のごとき存在であるといえるだろう[…]

もちろん移民だけでなく、イタリア文化を成すさまざまな面について触れられているので、この国について少し踏み込んで知りたいすべての人におすすめの一冊です。(田中)

 

こちらの記事もおすすめ