Grammatica+  上級へのイタリア語

[第52回]知覚動詞/イタリア代表はなぜ”Azzurri”なのか

五輪とか(日本の)コロナの感染爆発とかで、もうけっこう前な印象なんですけど、EURO 2020でイタリアが優勝しましたね。

当ブログも50回を過ぎてようやくイタリアの国民的なスポーツ、calcioの話題を取り上げる日が来ました(われわれ2人ともサッカーのことあまり知らないんですよね)。以下はその優勝を報じるil Fatto Quotidianoの短い記事。

Al termine dei rigori che hanno permesso all’Italia di laurearsi campione d’Europa, a Roma i tifosi si sono riversati a Piazza Venezia. Trombe, cori e fumogeni tricolore nella piazza gremita da romani e non, che si sono riuniti per vedere la partita finale degli europei che ha visto giocare la nazionale italiana contro l’Inghilterra.

il Fatto Quotidiano, 12 Luglio 2021)

PK戦の末にイタリアがEURO王者になると([直訳]イタリアがEURO王者になることを可能にしたPK戦の末に)、ローマでは熱狂したファンがヴェネツィア広場になだれ込んだ。ローマの人もそうでない人も、大勢が詰めかけたその広場ではラッパが鳴り、合唱が響き、三色旗カラーの発煙がたかれている。彼らは、イタリア代表対イングランド代表がプレーするのを[    ]するEUROの決勝戦を見るために集まったのだ。

 

ha visto giocare、知覚動詞ですね。でもその前に、私レベルだと気になるのが、「え? 単数? ってことは主語はla partita finale?」

みたいなことが気になりました。英語のseeに「~の舞台となる」という意味の用法があるけれど、それと同じような用法ですか? それプラス、知覚動詞についても教えてください。

 

生き物じゃないものが主語になってるの、ちょっと珍しいですね

といっても主語はその通りla partita finaleで、「AがBするのを見る/聞く」という構文ですね。これも国光くんが言ってくれている通り、vedereには無生物主語(soggetto inanimato)の場合に「〜の舞台になる、(主語になっている場所で)〜が起こる」という意味があります。一応、Zanichelliの辞書から例文を見てみましょう。

la città che lo vide nascere.
彼が産まれた町(直訳:彼が産まれるのを見た町)

ともかく、今回のテーマは知覚動詞ですね。イタリア語では、verbo percettivoと言います。知覚動詞を使った文は動詞vedereに関して役割を持っている要素の一つが不定詞(infinito)で表されていて、複文の一種ですね。第42回で見た使役や、第46回で見た不定詞の名詞的用法の仲間であると言えそうです。実際、今回の文の知覚動詞部分だけを抜き出してみると、実は使役動詞と同じ構文をとっていることがわかります。

La partita finale [動詞 ha visto giocare] [直接目的語 la nazionale italiana].
決勝戦はイタリア代表がプレイするのを見た(=イタリア代表が決勝戦でプレイした)。

どういうことかというと、本来は動詞giocareの主語であるla nazionale italianaが、ひとかたまりの他動詞のように振る舞うha visto giocareの直接目的語になっているわけですね。こういう構文のことを、使役構文(costruzione fattitiva)と呼ぶことがあります。知覚動詞はもちろん使役動詞とは違いますが、同じ構文をとることができるのですね。

ところで、使役構文は全ての知覚動詞がとれるわけではありません。この構文をとれるのは、vedereの他にintenderesentireudireあたりですね。一方、これらの動詞に加えて、例えばguardareascoltareのような他の知覚動詞もとることのできる、いわばもっと一般的な構文が次のようなものです。

Maria ha [知覚動詞 sentito] [直接目的語 Piero] [従属節 suonare il violino].
マリアはピエロがバイオリンを弾くのを聞いた。(Salvi & Vanelli 2004)

こちらの構文は、ズバリ知覚構文(costruzione percettiva)と呼ばれます。使役構文と違って、知覚動詞sentireに直接目的語のPieroがすぐに続いていますね。さらにその後に、特に前置詞を伴わない不定詞を使った従属節が続いています。こうしてみると、知覚動詞には二種類あって、知覚構文に加えて使役構文をとることのできるものと、そうでないものですね。

ところで、実は知覚動詞がとることのできる構文はもう一種類あります。これについては次回扱う予定なので、どんなものか予想してみてください。

 

[+α]イタリア代表はなぜ”Azzurri”なのか

EURO2020をご覧になった方はもちろん、サッカーワールドカップなどが好きな人ならすぐにぴんと来ると思うのですが、サッカーのイタリア代表は青いユニフォームを身に着けるのが通例となっており、その「青」を意味するazzurroの複数形”(Gli) Azzurri”(アッズーリ)は彼らの呼称として定着しています(サッカー日本代表を「侍ブルー」と呼ぶのと似ていますね)。

実は、azzurriで表されるのはサッカー代表に限らず、スポーツの代表選手全般で、そのためオリンピック開催中の現在、イタリアのメディアではazzurriという言葉をかなりの頻度で見聞きします。

ところで、スポーツの国際大会における代表チームのテーマカラーが国旗で使われている色からとられることが多いですが、イタリアの三色旗(緑・白・赤)にazzurro(青)が含まれていないのは言うまでもありません。

これはイタリア人にとっても「誰でも知ってる常識」というわけではないらしく、その証拠に、Il Postに「Perché gli atleti italiani sono “azzurri”?(なぜイタリアの競技選手たちは”azzurri”なのか)」という記事があるのを見つけました。ちょっと引用してみますね。

L’uso del colore azzurro per gli atleti italiani, infatti, è legato a uno dei colori simbolo della famiglia reale Savoia e la sua origine precede anche quella dell’Italia unita.

実は、イタリアのアスリートたちに青色を使うというのは、サヴォイア王家のシンボルカラーの1つと関係しており、その起源はイタリア統一をも超える歴史をもつものだ。

ここで、イタリアの歴代の国旗が網羅されているWikipediaページ「イタリアの国旗」を見てみます。私(田中)の無知ぶりが明らかになってしまうのですが、1861年、イタリアが統一され「イタリア王国」(現在は「イタリア共和国」です、念のため)が誕生した時の国旗、こんなん↓だったんですね、全く知りませんでした(3パターンあるらしく、Il Postの記事に載っているのは別パターンの1つ)

画像:F l a n k e r, CC BY-SA 2.5 <https://creativecommons.org/licenses/by-sa/2.5>, via Wikimedia Commons

 

ここではサヴォイア王家とイタリア統一の関係について説明するだけの紙幅もありませんし私にその知識があるわけでもないので、その辺は思いっきり省きますが、わかりやすい事例を一つ挙げるならば、イタリア王国の初代国王ヴィットーリオ・エマヌエーレ2世の名前を省略せずに記述するとVittorio Emanuele II di Savoia、つまりサヴォイア家の出身です。

もう一度上のイタリア王国の国旗をご覧いただきたいのですが、おなじみの3色の中央にある、赤地に白抜きの十字の盾、これがサヴォイア家の紋章です。そしての紋章を囲う青い縁取りがありますね。これが、イタリアのサッカー代表をはじめとするイタリア代表選手たちのテーマカラーの由来だというのです!

どうやら初めて使用されたのは1911年のサッカーの国際試合、ハンガリーとの一戦だったようですね。

L’azzurro scomparve dalla bandiera della Repubblica Italiana insieme al simbolo dei Savoia, ma intanto era già stato scelto per le maglie usate dalla nazionale di calcio italiana in una partita giocata nel 1911 contro l’Ungheria, probabilmente in omaggio alla famiglia reale.

(引用元同上)

この青(azzurro)はサヴォイアの紋章と一緒にイタリア共和国の国旗からは消えることになるが、その色は1911年に行われたハンガリーとのサッカー代表選のユニフォームのために選ばれていた。これはおそらく、サヴォイア王家への敬意を表するためだったようだ。

(田中)

 

アイキャッチ画像:FamVeld/Shutterstock

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