Grammatica+  上級へのイタリア語

[第23回]非対格構文では主語が動詞句の中に出てくる/生成文法への入り口②

今回は前回の続きで、土肥篤くんによる「イタリア語学と生成文法」への入り口に立つためのブックガイドです。

生成文法という比較的新しい学問分野への架け橋として、このブログではこれまで「非対格構文」を3回にわたって取り上げてきました。そちらの話が気になる方は、ぜひこちら(↓)からお読みください。

ちなみに非対格構文の様々な特徴は、この構文をとっている文の構造における主語(soggetto)の位置と関連していると言われています。主語というのは何なのかというのはそれ自体が見た目ほどには自明でない問題なのですが、とりあえず「動詞と人称・数が一致する名詞句」だと考えておきます。

非対格構文でない文の構造において、主語というのは動詞句の一部をなしていないことが最大の特徴です。簡単に言えば、主語が動詞の前に出てくる文というのは「主語(となっている名詞句)+動詞句」というのを最も基本的な構造として持っているわけですね。これは例文(1)のような他動詞でも、例文(2)のような自動詞でも同じです。

(1) [ [主語 Giovanni] [動詞句mangia una mela]].

(2) [ [主語 Valeria] [動詞句 dorme]].

非対格構文の特徴は、例文(3)のように主語が動詞句の中に出てきていることです。動詞句の中にあるというのは、直接目的語の典型的特徴なわけですね。例文(1)の直接目的語を(4)として示してみると、動詞句の構造は(3)とよく似ていることがわかります。非対格構文の主語が持っている直接目的語っぽい特徴は、このこととつながっていると考えられているわけです。

(3) [ [動詞句 È arrivato [主語 Luca]]].

(4) [ [主語 Giovanni] [動詞句mangia [直接目的語 una mela]]].

 

【+α】イタリア語学と生成文法(後編)

[前回は、日本語で読める本として、福井直樹著「自然科学としての言語学 生成文法とは何か」(大修館書店)を紹介してくれましたが、今回は、イタリア語の本です。]

イタリア語の文法記述の歴史を簡単に紐解いてみると、20世紀後半というのは、文法が(再び)学校を離れて学術的な研究の対象となっていった時期であると言えます。文法というのはそれまで1世紀以上にわたって学校で子供にイタリア語を教えるためのものでしかなかったのですが、これを学校から離れて科学的な記述・規範として提示しようという動きがようやく生まれてきたわけですね。こうした動きを代表する文法書の一つが、Luca Serianni著「Grammatica italiana. Italiano comune e lingua letteraria. Suoni, forme, costrutti」(UTET)です。

※参考までに各書籍にはCiNii booksのURLを貼ってあります。

さて、学校文法を超えて言語学を学ぶ人が参照できる文法書を作ろうという動きと生成文法は当然ながら親和性が高く、こうして生成文法における知見の蓄積を採り入れた文法書ができるわけですね。具体的には、第6回でも紹介したLorenzo Renziほか編「Grande grammatica italiana di consultazione」(Il Mulino)をはじめとして、Giampaolo Salvi & Laura Vanelli著「Grammatica essenziale di riferimento della lingua italiana」(Mondadori Education)、そしてこの二冊を下敷きにしたGiampaolo Salvi & Laura Vanelli著「Nuova grammatica italiana」(Il Mulino)がもっとも重要なものだと言って良いと思います。このブログにおける文法解説は、この流れの研究を基本的な枠組みにしています。ちなみに、最初のツイートにある鍵かっこつきの「新しい」というのはこのnuovaを念頭に置いています。(土肥)

 

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