Grammatica+  上級へのイタリア語

[第28回]non lo sonoのlo/本当のダイヤモンドの話をしよう①

I diamanti non sono così rari(ダイヤモンドはそんなにレアじゃない)という身も蓋もない題を冠した記事を取り上げます。De Beers(デビアス)社によるダイヤモンドの流通量制限については知っている人も多いと思いますが、まずは文法テーマから見ていきましょう。次の一文は記事本文の冒頭です。

I diamanti sono la pietra preziosa più nota e desiderata, ma la ragione non dipende dal fatto che siano le gemme di maggiore valore, né le più brillanti (non lo sono): bensì dalle strategie commerciali della società il cui nome è stato a lungo sinonimo dell’intera industria dei diamanti, la De Beers.

Il Post, 14 Febbraio 2021)

ダイヤモンドは知名度と需要の最も高い希少石ではあるが、その理由は、ダイヤモンドが非常に貴重な宝石であるからでも、輝きが最も強いものだからでもない(事実そうではない)。それはもっぱら、一企業による商業戦略によるものであり、その名は長らくダイヤモンド業界そのものの代名詞でもあった。すなわち、デビアス社である。

このnon lo sonoのloって面白いですよね。

ここのloはle più brillantiを受けている、という認識で正しいですか? そもそも、loは「代名詞」と言いながら、brillantiのような形容詞を受けて使うこともできるのでしょうか。

 

いまさらessere回!

loの用法についてはその通りで、loは形容詞句だろうが名詞句だろうがessereを使った文の補語を受けて使うことができます。loはふつう直接目的語の代わりをする代名詞ですよね。なので、essereの文に使えるのはちょっと不思議な感じがします。そもそも、essereって自動詞とも他動詞ともつかない、特殊な立ち位置ですよね。今回は、loによる代名詞化をキーに、essereを使った文の構造が二種類あることを見てみたいと思います。

 

essereを使う文には二種類ある

まず、essereを使った文というのは主語+essere+補語でできていますよね。この補語は名詞であったり形容詞であったり、あるいは前置詞が来ることもあります。いずれの場合でも、ものすごく大雑把にいってessereは「主語=補語」という図式が成り立つことを示していますよね。このような要素のことを、言語学ではコピュラ(copula)と言います。essereを使った文は、コピュラ文ですね。

イタリア語では、コピュラ文における主語と補語の関係には主要なものが二つあります。一つ目は例文(1)のように主語に対して何かしらの性質を付け加えるものです。このような文のことを、措定文(frase predicativa)と言います。もう一つは例文(2)のように、主語が表す指示対象が補語によって特定されるものです。このような文は、指定文(frase specificativa)と呼ばれます。

(1) Nora è intelligente.
ノーラは賢い。(ノーラという人物は、賢いという性質を持っている。)

(2) Il vincitore è Giovanni.
勝者はジョヴァンニだ。(勝者がいて、それはジョヴァンニであると同定される。)(Salvi & Vanelli 2004: 62)

こういうニュアンスの違いみたいなものがイタリア語を使う上でどこまで役に立つかはともかく、措定文と指定文にはloによる代名詞化に関して重要な違いがあります。(1)のような措定文の補語にはloが使えるのに対して、(2)のような指定文の補語には使えないのです。loは直接目的語を代名詞化する要素ですよね。したがって措定文の補語は、指定文の補語と違って直接目的語っぽい特徴を持っているんじゃないかという予測が成り立ちます。この予測は正しく、たとえば措定文の補語の一部をなしているdi+名詞は、neによって代名詞化することが可能です。第21回でみた通り、一部をneで取り出してこられるというのは、直接目的語の特徴でしたね。

さて、第23回でも見た通り、文構造の観点からみると直接目的語というのは動詞句の中に存在することがその特徴です。これに対して、主語は動詞句の外に現れます。非対格構文の主語は例外的に動詞句の中に現れていて、これが直接目的語っぽい一連の特徴とつながっているんでしたね。このことから、同様に直接目的語っぽい特徴を持つ措定文の補語は、動詞句の中にあると考えられています。措定文(1)の構造を、次に示してみます。

(1) [ [主語 Nora] [動詞句 è [補語 intelligente]]].

これに対して、(2)のような指定文の補語はloで代名詞化することができず、その一部をneで抜き出してくることもできません。これは、むしろ主語っぽい特徴ですよね。そこで、(2)の構造は次のように考えられています。(1)との違いは、補語であるGiovanniが動詞句の内側ではなく外側にあることですね。

(2) [ [主語 Il vincitore] [動詞句 è] [補語 Giovanni]].

essereは恐らく使用頻度ナンバーワンの動詞ですが、その性質はなかなか独特です。むしろ、よく使うものほど不規則で独特なのは言語の宿命なのかもしれませんね。

 

[+α]映画『ブラッド・ダイヤモンド』

ダイヤモンドがさほど希少でないにもかかわらずある種の特権的な地位を保ち続けているのはデビアス社が市場を独占しているから、というのは公然の秘密、というか別に秘密でさえありませんが、「ふーん、じゃあダイヤモンドの指輪をプレゼントするのって別にロマンチックじゃないんだ」で済むほど甘い話でもないことは、2006年の映画『ブラッド・ダイヤモンド』を見ればわかります。エドワード・ズウィック監督(『アイ・アム・サム』とか『ラスト・サムライ』の監督ですね)、レオナルド・ディカプリオ主演のハリウッド映画です。[…長くなったので続きが気になる方はこちらからどうぞ](田中)

 

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