みなさんこんにちは。前回に引き続き、代替肉/フェイクミートの記事です。
Abbiamo assaggiato alcune proposte che replicavano manzo e suino e l’effetto è stato incredibile. Nei casi migliori si avverte perfino quel sapore di sangue tipico dell’hamburger cotto al punto giusto o della fiorentina e il merito non è ovviamente del liquido rosso ma della leghemoglobina di soia.
(Corriere della Sera, 19 febbraio 2021)
われわれは牛肉や豚肉を模した製品をいくつか試食してみたが、その出来栄えは驚くべきものだ。いちばんよく出来た部類では、完璧に調理されたハンバーガーやフィレンツェのステーキにあるようなあの血の風味まで味わえ、それは明らかに赤色の液体によるものではなく、大豆のレグヘモグロビンによるものなのだ。
これが関係代名詞じゃないってマジですか!?
いやまあ、あんまり見出しが誇大になると信頼性に関わってくる気がするので早々に訂正すると、cheはある種の理論的立場から見ると関係代名詞とは区別されるってことなんですけど。要するに、関係詞節を導入するcheがどういう特徴を持っているのかを詳しく見てみようという回です。「用語」の問題についてはこのブログでも度々扱ってきましたけど(前回もだし、第20回なんかも)、要するにある文法事項のどういう点に言及してその用語が使われているのかを理解することが重要なのであって、結局どの用語を使うか自体は大した問題ではないと個人的には思います。
関係代名詞は前置詞がついているかどうかによって形が変わる?
さて、関係詞節というのは先行詞が主節と従属節の双方において何かしらの役割を持っていることが特徴でしたね(第18回を参照)。cheが関係代名詞であるという分析は要するに、次のような文(a)と文(b)から重複しているalcune proposteを代名詞cheに置き換えてつなげたものだという考えですよね。
(a) Abbiamo assaggiato alcune proposte.
(b) Alcune proposte replicavano manzo e suino.
→ (c) Abbiamo assaggiato alcune proposte che (=alcune proposte) replicavano manzo e suino.
でも、cheを使うことができるのは先行詞が従属節の主語または直接目的語になっている時だけです。今回の文では、先行詞は従属節の主語ですね。先行詞が従属節の主語でも直接目的語でもないというのは要するに前置詞を伴う時で、そういう場合には次の文のようにil quale(またはcui)が使われますよね(例文はDevoto-Oliの辞書からです)。
Gli amici dei quali ti ho parlato arriveranno domani.
君に話した友達は明日着く。
これは要するに「関係代名詞は、前置詞がついているかどうかによって形が変わる」とみなされているということですよね。でもよくよく考えると、これってかなりおかしいです。イタリア語の代名詞を見てみると、主語とそれ以外で形が違うというのはよくあるんですが(主語ioに対して、それ以外mi/me)、前置詞がつくかどうかで形が変わるというのは一つもありません。そもそもcheも、疑問代名詞として使われる場合にはちゃんと前置詞がつきます(Di che…? とか、A che…? とか)。文句なしの関係代名詞であるil qualeはcheに代わって主語や直接目的語にも使えるし(ただし直接目的語はかなりレアです)、cheとは明らかに性質が違いますよね。ちなみに間接目的語にしか使えないcuiも、昔は直接目的語にも使えていました。
「補文標識」としてのche
じゃあ、関係詞節におけるcheって一体なんなんでしょうか。このcheを関係代名詞と見なさない立場では、補文標識(complementatore)であると考えます。これは簡単に言えば、「以下、従属節」ということを一般的に示す以外に機能を持っていないということですね。今回の文のように先行詞が従属節の主語または直接目的語で、したがって名詞句だけで出来ている場合、従属節における役割を前置詞で表す必要がないので、関係代名詞で置き換えることなく単にその名詞句を省略してしまうことが可能であるのだと考えるとよさそうです。そして、「このあと従属節ですよ」というしるしとしてcheを置いているわけです。
(c’) Abbiamo assaggiato alcune proposte alcune proposte che replicavano manzo e suino.
この分析は、第18回で扱ったような動詞句っぽい構造を持った名詞句と非常に相性が良いです。cheを関係代名詞であると考えていると、先行詞が従属節において役割を持たないケースに遭遇した時に困ってしまうわけですね。(c)ではなく(c’)のようにcheは従属節のしるしに過ぎないのだと考えておけば、最初から重複している語のない関係詞節と全く同じ分析が適用できるのです。
さらにもう一つ、この分析の正しさを示唆する現象を紹介します。特に若年層の話し言葉では、cheを使った関係詞節がしばしば本来はcuiやil qualeの領域である表現でも使われる傾向にあるのです。次の文では、本来con cuiやcon la qualeを使うべきところでcheが使われています。これは、cheが名詞の代わりをする力を失って関係詞節一般を導入する要素、すなわち補文標識となっていることを示唆していると言えそうですよね。
La penna che io scrivo è nera. (Berruto 2004: 3)
私が書くペンは黒い。
[+α]代替肉、食べてみた!
なんかYouTuberみたいな見出しですみません。引用した記事は「代替肉」に関するものだったわけですが、そもそも私(=田中)が「代替肉」と呼んでいるこれ、名称としては何が定着しているのだろう。人工肉? 疑似肉? フェイクミート?と考えてみたところ、たぶん日本語としていちばんなじみがあるのは「大豆ミート」なんですよね。
そこでさっそく私は「しっかり肉を模して作られた」大豆ミートを3種類ほど試してみました。薄切り豚肉を模したもの。豚ひき肉を模したもの。そして鶏肉を模したもの。下の画像は、鶏肉を模した大豆ミートで酢豚もどきを作ったもの(なぜ酢豚を鶏肉で?という疑問はさておき)。
これらを食べての感想は、
・値段(十分安価)と味を天秤にかければ不満はない
・開発者には頭が下がる思いだ
・調理方法に習熟すればもっとおいしくなりそう
というおおむね肯定的なものでした。しかし、これらを食べた後のいちばん強い思いは……「ああ、肉が食べたいな」というものでした。おしまい。(田中)