Grammatica+  上級へのイタリア語

[第35回]短編集/日いづるところからフィレンツェへ②

ディーゼルエンジンのヤンマーについてのAGIの記事の2回目ですが、今回は、土肥くんにの「小ネタを集めた短編集のような回があってもいいのでは?」という粋な提案を受け、豪華3本立てで行きます!(なんか俺の言葉選びのセンスが昭和だな・・・)

①fraとtra

Qui, nel verde del viale Galilei, nei pressi del panoramico piazzale Michelangelo, l’equilibrio fra il senso del bello e il pensiero che si tradurrà in motori pionieristici, green, o in trattori robotizzati che possono arare i campi senza un guidatore, è una delle linee guida che ispirano il lavoro, oggi, di 23 giovani dipendenti, fra ingegneri e professionisti del settore economico commerciale.

AGI, 26 febbraio 2021)

fraとtraって形も意味も似ていますよね。例えばここの一つ目のfraは〈l’equilibrio fra A e B〉で「AとBの間のバランス」という意味ですが、この場合、traに置き換えることはできますか。

 

むしろ違う言葉より困るやつ

fraとtraは機能としては「似てる」というより全く同じです。なので、この場合を含めてどんな時でも置き換えること自体は可能なんですよね。一応、同じ音の繰り返しを避けるほうが好ましい(tra tre oreではなくfra tre ore)というのと、一部の表現は普通どちらかを使う(tra l’altroとか)ということは知っておいて損はなさそうです。traよりfraのほうが文語的だと言っている人もいますが、これは個人の感覚の範疇を出ていないかなあという感じがしますね。自分で使う場合は、上のルールを頭に入れた上で好きなほうを使うといいと思います。

 

②「副詞です」みたいな顔した形容詞

lavoriamo immersi nel silenzio e nel verde. Nel campo circostante alla sede, qualche giorno fa, abbiamo visto cinque caprioli…

AGI, 26 febbraio 2021)

私たちは静寂と緑に浸りながら働いています。会社の周りの野原で数日前に5匹の鹿を見ました……

このimmersiは分詞構文かと思っていたのですが、違うのでしょうか。

 

従属節のさらなるバリエーション!

「分詞構文である」と言う時に何を意味しているかの問題であるように思います。「(現在または過去)分詞を使った従属節である」という意味であれば、少なくともこのimmersiは過去分詞からきている形容詞なのでその通りだと言えなくもないですね。一方で、一般的には「分詞構文である」と言う時には第33回でも扱った次のような文におけるespulso以下の節のようなものを想定していると思います。

L’uomo politico [espulso ieri dal suo partito] si era opposto alla costruzione della diga. (Salvi & Vanelli 2004: 247)
[昨日党から追放された]政治家の男は、ダムの建設に反対していた。

今回のimmersiは、このような分詞構文とは決定的に違います。まず、確かにimmersiは他動詞immergereの過去分詞ですね。でも、過去分詞を使った従属節(すなわち、一般的に想定される「分詞構文」)で他動詞が使われる場合には、受け身の解釈になります(追放された)。今回の文を見てみると「私たち」は誰かに静寂と緑の中に浸らされているのではなくて、浸っているんですよね。ちなみに第33回で扱った絶対分詞構文は受け身の解釈を要求しないのですが、必ず主節に対して過去の出来事を表します。今回のimmersi「浸っている」のは明らかにlavoriamo「働く」と同時の出来事なので、これも違いますね。今回の文は考えてみれば(Noi) lavoriamo e (noi) siamo immersi nel silenzio e nel verde.という意味で、このimmersiは形容詞です

こうして考えてみると、この手の構文が面白いのは動詞を使わない従属節だということですね。このような文のことを小節(frase ridotta)と言います。文というのは動詞を中心として成り立っているもので、従属節は文に埋め込まれた文なのだから、動詞を持っていないというのはかなり特殊な性質ですよね。小節は、とくに80年代から90年代にかけて盛んに研究されていた印象です。

 

③”d eufonica”

Tutto questo ci ha aiutato ad abbattere barriere culturali, ed a capire che non è vero che il Giappone e l’Italia sono così diversi.

AGI, 26 febbraio 2021)

こうしたことはすべて私たちが文化の壁を打ち破り、日本とイタリアは全く異なるわけではないということを理解する助けとなるのです。

 

ここで前置詞aと接続詞eにdが加えられているのは発音しやすくするためですよね。とはいえ、外国人学習者が会話の中でさらっとこれを使っていたらかなりの上級者だという気がしますね。

 

「好音調」ってやつですね

といっても、「これは好音調です」って言われてもちょっとどう考えていいのかよくわからないですよね。そもそも、eufonia「好音調(=発音しやすい・好ましい音)」とかその反対のcacofonia「耳障りな音」みたいなものって主観的なもので個人や時代ごとに変わるんですよね。ちなみに、上でも扱ったtra tre oreを避けるというのもcacofoniaが原因ですね。これって「同じ音の連続はなるべく避けるべし」みたいなある程度普遍性のある原則「こういう音の連続は耳障りだということになっている/みんなが言っている」みたいな社会的な側面が両方存在しているように思います。

d eufonicaに関して言えば、実はルールとしては一部の決まった表現(ad esempioとか)を除いて、「全く同じ母音が連続する場合に限るのが望ましい」ということになっています。今回の文で言えば、ad abbattereは正しい使い方ですがed a capireはそうでないということになりますね。といっても、別に間違いであると断じられるほどの強い規則ではないので、結局は個人の感覚に任されています。学習者としては困っちゃうわけですが、「同じ母音の場合だけ使う」と思っておくと気が楽かもしれませんね。

 

[+α]イタリアと日本企業

今回はヤンマーの提灯記事感があって、個人的には日本だからって禅っぽい雰囲気を出してきていて非常に鼻につくのですが、重機といえばイタリアでは同じく日本企業のKOMATSUのほうが存在感がある印象ですね。他にイタリアで存在感のある日本企業といえば、ポッキーをMikadoという名前で売り出しているグリコとかでしょうか。ミラノにあるヨーロッパ最大級のストアをはじめとして大都市に店舗を持っているMujiこと無印良品もそれなりにイタリアで認知されていますね。

最近になってイタリアに進出した日本企業としては、2019年にミラノの一等地にオープンしたユニクロがあります。僕はミーハーなのでオープン直後に行ってみたのですが、ミラノのど真ん中に日本のとあんまり変わらないユニクロがあって不思議な感じがしたのを覚えています。オープン直後にコロナ禍があって苦戦しているようですが、日本のファストファッションブランドがイタリアでどの程度戦えるのかには個人的にとっても興味があります。(土肥)

 

Photo by Ilya Orehov on Unsplash

 

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