Grammatica+  上級へのイタリア語

[第69回]切り離せない所有/ドラギ首相が次期大統領に?(ならなかった)

前回の続きで、(記事掲載当時)実施を目前に控えたイタリア大統領選挙への出馬の意向を問われたドラギ現首相のコメントをまとめた記事から、一部抜粋して読んでいきます。現在では大統領選挙の結果は出ており、マッタレッラ氏の再選となりました。

 

E sono i nonni che spesso accompagnano i nipotini all’asilo e poi a scuola.

il Griornale, 23 Dicembre 2021)

それに、孫たちを保育所、そして学校に送っていくのは、往々にして祖父母だ。

 

ドラギ首相は、自身が孫をもつ祖父の立場から、現在のイタリア社会における、(孫の面倒を見てくれる)祖父母の重要性についてコメントしているのですが、まさにその祖父母を指すi nonniを今回は取り上げてみます。

nonnoのような近い親族を表す名詞に所有形容詞がつく場合、冠詞を伴わないというルールがありましたよね(今回引用した文では所有形容詞がつかず、冠詞を伴っている)。これって、そもそもなぜなのでしょうか。

 

またしても冠詞

単純に難しいのであんまり冠詞を扱いたくないというのは第25回でも書いた通りなのですが、今回扱う現象はどちらかといえば冠詞の性質というより親族名詞の性質ですね。具体的には、一部の親族名詞は所有形容詞(mio, tuoなどなど)がついた時に冠詞がつかないことがあるんですよね。この現象が起こる条件はなかなか厄介で、冠詞がつかないのは単数形かつ形容詞や指小辞などの修飾する要素がついていない場合だけです。

先に言ってしまうと、これらの現象に統一的で説得力のある説明を提供できている分析というのは今のところないように思います。といっても、親族名詞はどういう性質が文法上の振る舞いと関係しているのかを考える上で興味深い論点を提供してくれますね。今回は、「切り離せない所有」possesso inalienabileという概念をキーにして親族名詞と冠詞の使われ方について見てみたいと思います。

 

「所有」というのは単純なようでいてかなり色んな様態を含んでいるわけですが、その中でも大きく分けて二種類の所有があるということが言語学ではしばしば指摘されています。「切り離せる所有」possesso alienabileと、切り離せない所有ですね。後者には身体部位の他に、近しい親族や「家」等といった言葉が含まれていて、要するに所有者に強く所属している物や人ですね。前者はそれ以外です。これら二種類の所有は、世界の色々な言語で文法上異なる振る舞いをします。イタリア語では例えば、間接目的語は次の文のように所有者を表すことがありますが、この用法は基本的には切り離せない所有の場合に現れます

Maria asciugò il viso a Giovanni. (Salvi & Vanelli 2004: 41)

マリアはジョバンニの顔を拭いてあげた。

 

こうしてみると、親族名詞が所有された時に冠詞がつかないというのは、切り離せない所有が特殊な振る舞いをするという、より一般的な現象の一つの現れですね。一方で、上でも見たように切り離せない所有であるからといって冠詞がつかないとは限りません。この現象は統一的かつ一様に現れるというわけではないのですね。これは、ある所有が切り離せるか切り離せないかというのは、身体部位のような明らかな場合を除けば心理的な愛着なんかも関わってくる主観的なカテゴリーであることが関わっていそうですよね。たとえば、間接目的語による所有の表現は身体部位の他に「思考」pensieroでも可能だし、また「車」macchinaのように、特定の所有者が存在することが広く認められている物でも可能です。

 

親族名詞と冠詞の話に戻ると、この現象はしばしば所有形容詞つきの親族名詞は固有名詞と同じような性質を持つからという風に説明されます。第25回でも扱ったように、冠詞というのは名詞が聞き手にとって特定できるかどうかに従ってつくものでしたね。固有名詞はその性質からいって常に特定可能で、したがって冠詞がつかないのですね。所有形容詞つきの親族名詞もその性質上、特に単数のときは特定個人を指していて、ほとんど固有名詞のようなものですよね。それで冠詞がつかないのだという理屈です。この説明に説得力を感じるかはともかく、所有というのは一様な状態ではなく、様々な所有の仕方が文法にも影響を及ぼすことがあるというのは知っておいていいかもしれませんね。

 

【+α】イタリア大統領選挙

この記事のテーマになったイタリア大統領選挙ですが、29日に実施された選挙の結果としては現職のマッタレッラ氏が再選されました。ちなみに候補の中にはドラギ首相のほかにシルヴィオ・ベルルスコーニ氏なんかもいたのですが、右派と左派の両方から支持を集められるのがマッタレッラ氏しかおらず、退任の予定だった氏に留任してもらう形になったようです。イタリア政界の混乱を象徴するようなエピソードですね。

ところでベルルスコーニ氏が大統領候補というのは個人的にはなかなか衝撃でした。御年85歳、2020年には新型コロナウィルスにも感染したのですが元気ですね。日本では最も有名なイタリアの政治家だと思うのですが、まだまだ現役のようです。まあ、それを言うとマッタレッラ大統領も80歳なのですが。大統領の任期は7年なのですが、これ満了するんだろうかとか、他に大統領できる人がいないなら次はどうなるんだろうかとか、選挙直後なのに色々と心配になってしまいます(土肥)

 

 

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