Grammatica+  上級へのイタリア語

[第68回]不思議な特徴をもつ人称代名詞(egliなど)/ドラギ首相が次期大統領に?

あけましておめでとうございます、と言うにはもう遅すぎるような気もしますが、これが2022年最初の書き下ろし記事です!

今回読む記事は、1月24日に投票プロセスが始まるイタリア大統領選挙についてです。マリオ・ドラギ首相がこれに出馬するのかどうかを巡り、記事はこのように始まります。

Mario Draghi, alla domanda se si candida a presidente della Repubblica, ha risposto che egli è un nonno e uomo delle istituzioni*.

il Griornale, 23 Dicembre 2021)

マリオ・ドラギは、共和国大統領に立候補するかとの問いに対し、自身は祖父であり、公共に仕える人間だと答えた。

*delle istituzioniについては[+α]で少し補足しています↓

今年最初に取り上げるのはegliです!

イタリア語の3人称の主語人称代名詞はけっこうバリエーションがありますよね。『イタリア語のABC』では、luiやleiに対してegliやellaは「主として改まった話し方や文章語で用いられます」とありますね。

 

人称代名詞回!

人称代名詞については第41回第58回でも出てきましたね。そもそも主語が出てこない文が許容されるというのがイタリア語が持つ大きな特徴の一つであることもあわせて考えると、特に主語になる人称代名詞はイタリア語学の典型的トピックの一つですね。新年一発目のテーマとしてなかなか相応しいのではないでしょうか。

今回のegliや国光くんが挙げてくれているellaの他に、esso, essi, essa, esseなんかも似たような立ち位置の言葉ですよね。なんか古臭かったり文章語っぽい印象のする主語人称代名詞、という感じでしょうか。今回は、これらの語がどういう特徴を持っているのかについて考えてみたいと思います。

第41回第58回でも出てきたように、イタリア語の代名詞は強勢形(libero)接語形(clitico)の二種類に分かれるんでしたね。強勢形代名詞と接語形代名詞の違いについて、このブログではこれまで、大まかに分けて二つの点を見てきました。一つは音に関するもので、強勢形の代名詞はその名の通り「強勢」、すなわちアクセントをつけて読まれる母音を持っています。これに対して接語形の代名詞は非強勢形とも呼ばれて、アクセントがどこにもつかず、常にアクセントを持つ他の語と一緒になって発音されます。もう一つの違いは用法で、強勢形は新しい要素(nuovo)に、接語形は既知の要素(dato)に使われるんでした。

このことを念頭においてegliを見てみると、この語は強勢形の代名詞ですよね。というのも、アクセントが最初のeにあって、接語形の代名詞のように発音上他の語に依存しないからです。発音の上では、egliは通常の名詞や強勢形の主語人称代名詞luiと同じ性質を持っているのですね。

一方で、用法をみるとこの語がちょっと不思議な存在であることがわかります。というのも、egliは強勢形の代名詞であるにもかかわらず未知の要素に使うことができないんですね。たとえば、第58回にも出てきた対照(「Aではなく、B」)というのは、典型的に未知の要素が現れるケースでしたね。egliは、こういう場合には使えません。

*Egli è partito, non Piero.
Lui è partito, non Piero. (Salvi & Vanelli 2004: 193)
ピエロではなく、彼が出発したんだよ。(*がついているのは、言えない文です)

主語について、既知の要素に使われる接語形代名詞に対応するのはゼロ主語第41回)でしたね。egliは、強勢形代名詞であるにもかかわらずゼロ主語と同じように使われることがその特徴です。

ちなみに、ゼロ主語と同じなのになぜ使うの?という疑問がわいてくると思うのですが、その通りなので現在ではほとんど使われません。一応、既知の要素ではあるけれども、ゼロ主語だと主語が何かわからなくなってしまう恐れがあるということは文章だとそれなりによくあるので、そういう場合が使いどころといえば使いどころです。egliやellaは性が指定されていてかつ人間にしか使うことができないので、ゼロ主語よりは主語の可能性を絞ることができますね。ちなみに、essoは(しばしば抽象的な)物、essi/essa/esseは物と人のどちらにも使えます。

 

 

[+α]ちょっとだけ記事の補足

今回取り上げた記事の引用文について補足です。

egli è un nonno e uomo delle istituzioni

のdelle istituzioniの部分、最初私(=田中)は「しきたりを重んじる」と訳していたのですが、よく意味が分からなかったので土肥くんにどういう意味なのか尋ねてみたところ、まず元の発言をソースに当たって調べてくれて(リテラシーの差よ!)、

“sono un uomo o, se volete, un nonno al servizio delle istituzioni.”

「私は一人の人間、あるいは言うなれば祖父、として公共に仕えるだけ(したがって大統領選に自分が立候補するかは複雑な政治上の成り行き次第で、私個人の意見は関係ない)」

のように解説してくれました。この発言をした会見の動画もウェブ上で見られます。
(該当箇所は0:37~)


nonniたちがイタリア社会に果たしている役割というものが、今回の記事のテーマとなっています。じゃあドラギがそれについて語っていたのかというとそうではなくて、その発言から(自由に)膨らませていって、記者の思いを書き連ねた雑感といった趣なのですが、

Chiusi in casa per il Covid, i bambini hanno avuto il conforto dei nonni, i loro racconti, il gioco con loro. Dopo le vaccinazioni, che i nonni hanno fatto per primi, per tre dosi, i bambini ora stando con loro sono in un rifugio sicuro.

il Griornale, 23 Dicembre 2021)

ここなんかは読んでて、祖父母のありがたみをコロナ禍で改めて痛感した身としては「それな」と共感しました。(田中)

 

 

 

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