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[第53回]「なんちゃって関係詞節」こと擬似関係詞節/イタリアサッカー代表とマンマ

さて、前回の続きで、EURO2020でのイタリア優勝を報じる記事です。取り上げるパラグラフは前回とまったく同じです。

Al termine dei rigori che hanno permesso all’Italia di laurearsi campione d’Europa, a Roma i tifosi si sono riversati a Piazza Venezia. Trombe, cori e fumogeni tricolore nella piazza gremita da romani e non, che si sono riuniti per vedere la partita finale degli europei che ha visto giocare la nazionale italiana contro l’Inghilterra.

il Fatto Quotidiano, 12 Luglio 2021)

PK戦の末にイタリアがEURO王者になると([直訳]イタリアがEURO王者になることを可能にしたPK戦の末に)、ローマでは熱狂したファンがヴェネツィア広場になだれ込んだ。ローマの人もそうでない人も、大勢が詰めかけたその広場ではラッパが鳴り、合唱が響き、三色旗カラーの発煙がたかれている。彼らは、イタリア代表対イングランド代表が行われるEUROの決勝戦を見るために集まったのだ。

マーカー部分は「[che以下]であるEURO大会の決勝戦を見る」という意味ですね

意味を取るうえではそれほど難しい構造をしているようには見えませんが、この部分、どんな特徴があるのでしょうか?

今回の文、知覚動詞の入れ子構造なんですよね

前回扱った、知覚動詞vedereがとっている使役構文は、文全体を見てみるとそれ自体がcheによって導入された従属節なんですよね。主節の動詞は、(これまたperによって導入された不定詞を使っている従属節の)これもvedereです。「EURO決勝戦がイタリア代表がイングランド代表と戦うのを見る(=戦いの舞台になる)のをローマ人やそうでない人が見る」という、知覚動詞の従属節に知覚動詞が出てくる入れ子構造というわけです。

さて、今回はこの入れ子のうち外側のもの、すなわち一つ目のvedereがとっている構造に注目してみたいと思います。この構造って、前回扱った使役構文と知覚構文のどちらとも違いますよね。知覚動詞vedereの後に従属節の動詞(こっちも知覚動詞vedere)の主語であるla partita finale degli europeiがきていて、従属節の動詞は不定詞ではなく補文標識cheと活用した形で表されています。今回の文はこれ自体がさらに従属節であったりして構造が複雑なので、同じ構文をとっている典型的な文を見てみたいと思います(以下、例文は全てSalvi & Vanelli 2004: 239-240からです)。

Maria ha sentito Piero che suonava il violino.
マリアはピエロがバイオリンを弾くのを聞いた。

ぱっと見、Pieroは主節の知覚動詞sentireの直接目的語であると同時に従属節の動詞suonareの主語で、第18回とか第27回なんかで扱った関係詞節のように見えますね。こういう構文のことを、擬似関係詞節構文(costruzione pseudorelativa)と言います。なんで「擬似」かというと、関係詞節のような見た目をしている割に関係詞節とは異なる特徴を持っているからですね。たとえば、先行詞が主節の直接目的語になっている関係詞節は先行詞と一緒にまるごと代名詞化(pronominalizzazione)しなくてはならず、関係詞節だけを残しておくことはできません。

Maria conosce un ragazzo [関係詞節 che suona il violino].

→Maria lo conosce.

→*Maria lo conosce che suona il violino.(*のついた文は言えない文です)

マリアはバイオリンを弾く男の子を知っている。

これに対して、擬似関係詞節では先行詞だけを代名詞化することができます

Maria ha sentito Piero che suonava il violino.

→Maria l’ha sentito che suonava il violino.

関係詞節は先行詞に対して何かしらの説明を付け加えるもので、形容詞なんかと同様に先行詞を主部とした名詞句の一部をなしているためにこのような文ができないのですが、擬似関係詞節はそうではないということですね。実際、知覚構文がつくる擬似関係詞節は先行詞に説明を付け加えているのではなくて、「(先行詞)が〜する」という主語ー述部の関係を表しているわけですよね。このことと関連して、擬似関係詞節の先行詞は必ず従属節の主語です。関係詞節では、先行詞は従属節において直接目的語であったり間接目的語であったりもできましたよね。また、これも関係詞節と違って、擬似関係詞節の動詞が表す出来事は主節の時点と同時(第6回も参照)です。「〜するのを見る/聞く」という表現なのだから、当たり前といえば当たり前ですね。

こうして考えると、擬似関係詞節の動詞は活用こそしているものの、主語も時制も主節に強く依存しています。主節と関係なくどんな形の動詞も使える関係詞節よりも、むしろ不定詞の従属節を伴う、前回の知覚構文に近いですよね。まさに「なんちゃって関係詞節」なんですね。

 

【+α】イタリアサッカー代表とマンマ

今回の記事にあるようにイタリア代表は実に52年ぶり、2回目のヨーロッパ王者となったわけですが、そんな歴史的勝利の直後にFederico Chiesa選手がお母さんに電話をかけていたり、Alessandro Florenzi選手はテレビに向かって「見て、マンマ!」と叫んだりして話題になっていました。イタリアがmammone大国というのは別にイタリア語学習者でなくても常識という気もしますが、初めて留学した時にはルームメイトが毎日お母さんと電話していたりしてそれなりに驚いた記憶があります(まあ、そこまでの人はイタリアでも珍しいけど)。

といっても、個人的な印象では「マザコン」のイメージに反してイタリア人男性の家事スキルって高いんですよね。料理ができる人も多いし、一人暮らしでもベッドメイクなんかは完璧だったりする気がします。マンマ仕込みなんでしょうか。生活力ゼロの人間としては見習いたいです。毎日電話はキツいけど…(土肥)

 

アイキャッチ画像:FamVeld/Shutterstock

 

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