皆さん、こんにちは。
いきなりですが、関係代名詞cuiを取り上げたGrammatica+第34回の最後のパラグラフを振り返ってみます。
さて、関係代名詞cuiとil qualeは基本的には同じ使い方をするのですが、ごく一部にどちらかにしかない用法があったりします。今回の文のような所有の用法はその典型例で、前置詞なしで現れて実質的には所有形容詞のような使われ方をする(la sua casa madre)、cuiに特有のものですね。il qualeにしかない用法もあるので、よければ考えてみてください。
今回は、この宿題の答え合わせです。
前回からLa storia di Venezia nelle parole che ci ha lasciato(現代イタリア語のことばに見るヴェネツィアの歴史)という記事を読んでいますが、今回はballottaggio(決選投票)を取り上げます。その由来となったのはヴェネツィア共和国のdoge(総督)の選出方法にあって、これがえらく複雑なプロセスなんですよね(「+α」で補足します)。これについて述べた文章の中から、今回は関係代名詞il qualeをピックアップしてみます。
Nella prima delle tante procedure, il più giovane dei consiglieri ducali sceglieva il primo bambino che gli fosse capitato davanti in piazza San Marco, il quale diventava poi il “ballottino”, cioè colui al quale toccava l’estrazione delle “ballotte” con cui iniziava la lunga scrematura dei candidati. Questa procedura divenne con il tempo nota come ballottaggio, che ora indica la votazione tra i due candidati più votati in un primo turno elettorale.
(Il Post, 25 Marzo 2021)
多数あるうちの最初の手順で、ドージェの評議員たちの最年少者が、サンマルコ広場の前を初めに通りかかった少年を選び、この少年が”ballottino(抽選係)”となる。この「抽選係」とは”ballotte(抽選用小球)”の抽出の役目を担う者のことで、この小球によって長い候補者選びが始まるのである。この手続きが後にballottaggioとして知られるようになり、現在では、初回の選挙で最も得票数の多い二人の候補者間から一人を選ぶ投票を指すようになった。
consiglieri ducali: ドージェの評議員/capitare: 通りかかる、出会う/estrazione: 抽出、抽選/ballotta: 投票用小球/scrematura: 選別/elettorale: 選挙の
il qualeに特有の用法はこれだけではないんですけど、間違いなく重要なものの一つですよね。il qualeは主格にも使える(場合がある)のですね。今回はil qualeの使い方について、もうちょっと掘り下げてみたいと思います。
制限用法と非制限用法
まず、関係詞節というのは形容詞と同様に名詞を修飾するわけですが、そのやり方には二つの種類があります。Treccani(https://www.treccani.it/enciclopedia/proposizioni-relative_%28La-grammatica-italiana%29/)から、次の例文を見てみましょう。いつものように関係詞節をかっこで括ってあります。
(1) Devo restituire a Mattia la cravatta [che mi ha prestato].
[貸してくれた]ネクタイをマッティアに返さないといけない。
(2) Mio cognato, [che da poco è tornato single], si chiama Giulio.
私の義兄(義弟)は、[最近独身に戻ったのですが]、ジュリオという名前です。
例文(1)の関係詞節は、先行詞cravattaが指示する対象を特定する役割を果たしています。どういうことかというと、世の中にたくさんある「ネクタイ」の中から、ここで言っているものが「マッティアが私に貸してくれたネクタイ」であると聞き手が特定するために関係詞節の情報が必要なわけですね。こういうものを、制限用法の(restrittiva)関係詞節と呼びます。
一方、例文(2)における関係詞節はそうではありません。「私の義兄(ないし義弟)」というのはすでに特定された個人であって、別に関係詞節はその中からここで言っている人が特定の人物であると同定するために必要なわけではありませんね。関係詞節は、この人に関する情報を付け加えているだけです。こういうものが、非制限用法の(descrittiva)関係詞節ですね。非制限用法の関係詞節はふつう、前後に少し間があきます。文章の場合は、コンマ(virgola)が入りますね。
il qualeにあってcheにないもの
さて、今回の文がそうであるように、il qualeは非制限用法の時にだけ主格に使えます。つまり、先行詞(今回の文では、il primo bambino)が従属節の動詞(diventare)の主語になっている場合にも使えるわけですね。cheももちろん使えるので、非制限用法の主格の場合には、cheとil qualeのどちらでもいいということになりますね。ただ気をつけておきたいのは、il qualeは先行詞の性と数に応じて変化するということです(la quale, i quali, le quali)。つまり、cheにはない情報をil qualeを使うことで付け加えることができるということですね。
これが重要なのは、まさに今回の文のように先行詞の後にすぐ関係詞節がきていない時です。今回の文ではil qualeで始まる関係詞節の前にさらに別の、cheで始まる制限用法の関係詞節がありますね。このように別の要素によって先行詞と関係詞節が切り離されているケースでは、cheを使うと先行詞がどれなのかわかりづらいことがあるのです。今回は、il qualeという男性単数の形が使われていることで先行詞が例えばより近い名詞のpiazzaではなくbambinoだということがわかるわけですよね。こういうケースでは、少なくとも文章ではcheではなくil qualeを使うことが好ましいですね。
ちなみに、一部の文法書なんかではil qualeは直接目的語でも使えるということになっています(たとえば、Treccani:https://www.treccani.it/enciclopedia/pronomi-relativi_(La-grammatica-italiana)/)。これは少なくともちょっと古めのイタリア語では事実なのですが、今日のイタリア語ではil qualeは直接目的語には使いません。学習者としても、避けた方が無難ですね。
今回の参考文献
Slapek, Daniel. 2015. “Il Pronome Relativo Rivisto.” Italica 92 (2): 441–63.
[+α]ヴェネツィア共和国における総督の選出方法
今回記事から引用したのは、ヴェネツィア共和国の総督を選出するプロセスにおける最初の手続きに触れるものでした。可能な限り公平を期する(権力者による恣意的な選出を防ぐ)ために、このような複雑で煩瑣な過程を経ていたわけですね。
引用箇所はこのプロセスのごく始まりの部分にすぎず、『ヴェネツィア歴史図鑑』はこのプロセス全体を次のように説明しています。
総督の選出は最初は市民大集会に委ねられていたが、後に限られた人数の選挙人で行うようになった。選挙の仕組みは徐々に整えられ、1268年の法で明確に規定された。不正を防止するために、抽選と投票を交互に繰り返して総督選挙会議のメンバーとなる41人を指名したのである。まず、「バッロッティーノ」と呼ばれる少年が球を無作為に選んで、大評議会の30歳以上の議員に一つずつ手渡した。金色の球を受け取った30人は、抽選により9人にまで減らされ、この9人が40人の議員を推薦した。この時、9人は投票で40人を選んだが、7票以上を獲得しないと選出が承認されなかった。その後、抽選を行って40人を12人に減らし、この12人が新たに25人の選挙人を選んだ。再び抽選でこれを9人に減らし、この9人が投票で45人を選んだが、抽選でもうー度11人に減らした。この11人が総督の選挙人の選挙人となり、総督選挙会議の41人のメンバーを選出したのである。そして、最後に選ばれた41人が最終的に総督候補者を指名した。候補者の数だけ用意された投票箱に、深紅色の球を入れて投票するという方法をとった。この投票で25票以上を獲得した者が総督に選ばれた。
(『ヴェネツィア歴史図鑑』より)
(田中)
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