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[第22回]「非対格構文」その3/生成文法への入り口

「ひ」と入力すると「非対格構文」がまっさきにサジェストされるくらいには連続して取り上げている非対格構文、今回で3回目ですね。

さて、実は今回は土肥先生から私に宿題が出ていました。それは、

・動詞の時制が近過去である非対格構文を探す
・近過去をつくる際にessereもavereもとりえる動詞があれば望ましい

というもの。そこで、私は「非対格構文を探す旅」に出掛け、さまざまな困難をくぐり抜けた末、辿り着いたのが動詞volare(飛ぶ)でした。volareは自動詞・他動詞の両方で用いられます。まず、私が見つけた非対格構文を2つ見てみます。

In apertura di evento nel cielo di Cortina sono volate le Frecce Tricolori. Era cominciata bene la giornata azzurra, ma lo sci alpino non ha confermato le speranze dei tifosi. Nei prossimi giorni le altre gare.
Mondiali, Paris solo quarto in discesa: ”Ho sbagliato e non posso rimediare”

Nel vertice, nuovamente prolungatosi fino alla sera, sono volate parole grosse e, se fosse stato per Angela Merkel, le misure restrittive sarebbero proseguite ancora fino a metà marzo, anche per le scuole.
Industriali e commercianti in Germania borbottano sulle nuove misure anti Covid

essereを伴って近過去の形をなしています。一方、同じ自動詞の用法でも、以下ではavereを伴っています。

La società statale ha ricordato che Roscosmos e Space Adventure hanno lavorato insieme nell’ambito del turismo spaziale dal 2011, quando il primo turista spaziale Denis Tito ha volato in orbita. In tutto sette persone nello spazio nell’ambito di un programma di turismo spaziale e Charles Simoniy ha volato due volte.
Russia, nel 2023 la prima passeggiata spaziale di un turista

avereを使う場合もessereを使う場合も、どちらも意味は「飛ぶ」ですよね。

ここにはいったいどんな違いがあるのでしょうか。

 

非対格シリーズも大詰めですね

近過去を作るときの助動詞にessereを使うものがほしいと言ったのは、実は非対格構文の話を過去二回に渡って延々としてきた理由がそこにあるからです。結論から言えば、非対格動詞は近過去をessereで作るのです。

おさらいと用語の確認

まず前回までのおさらいですが、非対格構文というのは自動詞の主語が動詞の直後に置かれて直接目的語っぽいけどそうでない、特別な振る舞いを見せる構文のことですね。非対格動詞というのはそういう構文をとることができる動詞のことでした。ここで、次の二つのことを確認しておきます。

まず一つ目は混乱を避けるためで、非対格構文というのは個別の文がとっている構造のことで、非対格動詞というのは動詞の性質のことであるということです。何が言いたいかというと、非対格動詞だからって非対格構文をとっているとは限りません。例えば、Gianni è arrivato.「ジャンニが到着した。」という文は、非対格動詞arrivareを使っているけれども非対格構文ではない文ですね。

二つ目は、「非対格動詞」という用語は実は不正確とまでは言えないもののミスリーディングだということです。動詞には自動詞と他動詞があるわけですが、多少の意味の変化を伴ってこのどちらとしても使われる動詞というのが存在しますよね。例えばcantareという動詞は単に「歌う」という意味で自動詞にも、歌を直接目的語にとって「〜を歌う」という他動詞にも使われます。こうして考えると、「自動詞である語」とか「他動詞である語」が存在するのではなくて、「自動詞である用法」と「他動詞である用法」が存在することがわかりますよね。意味の性質上、「自動詞としての用法しか持たない語」「他動詞としての用法しか持たない語」は(少なくとも理論上は)存在するでしょうが、いずれにせよ自動詞と他動詞の区別は、個別の語彙ではなく、しばしば複数あるその用法(意味)レベルに存在するのだと思っておいた方が良さそうです。全く同じことが、非対格動詞にも言えるわけですね。存在するのは「非対格動詞である用法」であって、「非対格動詞である語」ではありません。

 

essereで近過去を作る = 非対格動詞

さて、冒頭の話に戻ります。といっても、この話はシンプルです。自動詞の近過去にはessereを使うものとavereを使うものがありますが、このうちessereを使うものは、非対格動詞と完全にかぶっています。要するに、essereを使って近過去を作るというのは非対格動詞の特徴の一つなんですね。近過去を最初に学んだ時、「移動や変化等を表す動詞はessere」というようなことを習ったと思います。これはそのまま非対格動詞の意味の傾向なんですね。

ここまで来ると、volareのようにessereとavereのどちらもとり得る動詞のことも理解できます。ちょうど自動詞と他動詞の用法をどちらも持つ動詞があるように、非対格動詞とそうでない自動詞の用法をどちらも持っているんですね。意味も微妙に違っていて、場所を表す補語がついて「移動」のニュアンスが強められたり、比喩的に使われている場合にはessere、単に「飛ぶ」という動作に言及する場合にはavereが使われることが多いようです。

さて、非対格シリーズはこれでひと段落ですが、このトピックが面白いのはその広がりです。これまでも既に、受け身、分格のne、近過去といった一見すると相互に無関係な現象が非対格構文と関連していることを見てきました。なぜ非対格構文にはこういう特徴があるんだろうとか、近過去にessereを使うのであれば再帰動詞との関わりはあるんだろうかとか、さらに色々なトピックに話がつながっていきそうですよね。文法というのは体系です。個別の現象を超えて、その裏にあるルール、ひいてはそれを生み出す我々ヒトの精神に目を向ける面白さを、非対格シリーズを通して少しでも感じてもらえていますように!

【+α】イタリア語学と生成文法

非対格構文シリーズ一回目である第17回について、こんなツイートをしました。せっかくなので、イタリア語文法と生成文法について簡単な補足をしてみたいと思います。

生成文法というのは言語に興味のある人なら誰でも小耳に挟んだことくらいはあると思います。この理論についての導入をするというのは完全に僕の手に余る仕事なのと、おそらく日本語で読める入門書に「これという一冊」みたいな評価が固まっているものがないように思われるのですが、生成文法そのものに興味がある方のために一つおすすめの本を挙げるなら福井直樹著「自然科学としての言語学 生成文法とは何か」(大修館書店)です。なお、これは僕が著者の先生のファンだからです(ちなみに、福井先生はつい先日日本言語学会の会長になりました)。

イタリア語学との関連性において生成文法がとりわけ重要なのは、まさにこの書名にもあるように生成文法が言語学を自然科学とみなしたことですね。ものすごく雑に言って、たとえば「こういう時にはこういう言い方をする」みたいな単なる記述や「こういう言い方が望ましい」みたいな規範を超えて、なぜこういう言い方ができて、こういう言い方はできないのか」に対して近代科学の手法を使ってアプローチしていく点がポイントだったのです。イタリア語の研究者たちは、こうした生成文法理論の流れにヨーロッパの中でもいちはやく反応して参加していきました。たとえば、イタリアでは1976年にすでにRivista di Grammatica Generativaという生成文法専門の学術誌が創設されています。著名なイタリア人生成文法研究家には、Luigi Rizzi, Anna Cardinaletti, Luigi Burzioなどがいます。ちなみに最後のBurzioは、既に存在が指摘されていた非対格構文を生成文法の枠組みに落とし込んだ人です。(次回へ続く)

 

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