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[第15回]〈venire+過去分詞〉の受動態は普通の受動態とどう違う?/Ghibliの由来

(2022/6/30改訂)

今回は、アニメ界の巨匠、宮崎駿氏が80歳になったというRai Newsの記事です(※記事は2021年のものです)。誕生日は、以下の記事の配信日である1月5日でした。

Hayao Miyazaki, leggenda dell’animazione giapponese, compie oggi 80 anni. Nato a Tokyo nel 1941, Miyazaki scopre e inizia a coltivare la sua passione per manga e anime da adolescente. Negli anni Sessanta, dopo essersi laureato in Scienze Politiche, viene assunto dalla Toei, una importante casa di produzione per la quale inizia come disegnatore e dove, tra l’altro conoscerà Akemi Ota che sposerà nel 1965.

Rai News, 05 gennaio 2021)

※和訳は下にあります↓

 

今回取り上げるのはviene assuntoの部分、〈venire+過去分詞〉の形をとる受動態です。

念のため確認しておくと、assuntoはassumere(~を雇う、雇用する)の過去分詞で、「東映に採用される」ということですね。また、この記事では全体的に過去のことも現在形で叙述されています(compie, scopre, inizia…)。

手元にある一般向けの文法書には、〈essere+過去分詞〉だと近過去と見分けがつきにくいので、受け身であることをはっきり示すために〈venire+過去分詞〉の形を使う、とあります。この認識で正しいですか?

 

個別の文法書の批判はしたくないんですけど

その説明はちょっとおかしいですね。まず、受け身の構文というのは他動詞の直接目的語を主語にして作られるわけですよね。これに対して、essereを助動詞にとって近過去形を作るのは(一部の)自動詞だけです。したがって、近過去なのか受身なのかが曖昧な文というのは存在しません。曖昧でありえないのだから、それを避けるためにわざわざvenireを使う必要はありません。学習者が混同することはあり得るでしょうけど、それはイタリア語の文法とは関係がないですよね。

 

受身の文の解釈は2通りある

じゃあ、なんで受身の助動詞にはessereを使ったりvenireを使ったりするんでしょうか(この記事では扱いませんが、andareを使うこともありますね)。これを理解するために、まずはいわゆる受身の文の解釈が実は二種類存在することを見てみます。

La porta è chiusa. (Salvi & Vanelli 2004: 69)

一つ目の解釈は、「扉が閉まっている」ですね。たぶん、この文を見た人はだいたいまずこの解釈をするんじゃないでしょうか。これを「状態受動」の解釈(interpretazione stativa)と言います。この解釈と並んで存在するのが、「扉が閉められる」です。こちらは「動作受動」の解釈(interpretazione passiva)と言います。実は前者の解釈における過去分詞はもはや形容詞であって動詞ではないので、「本物の」受け身の構文は動作受動のものだけだと言うこともできそうですが、とりあえず細かいことはおいておくことにします。

状態受動と動作受動のどちらの解釈がされるのかは、様々な要因によって決定されます。例えば、動作を行う主体が前置詞daによって示された場合には(当たり前ですが)動作受動の解釈が優勢になります。

La porta è chiusa da Matteo.
「扉がマッテオによって閉められる。」

また、動詞が持つ意味の性質によっては、片方の解釈が不可能であることがあります。次の文では動詞baciare「キスする」が持つ性質のために、状態受動の意味(ジャンニはキスされている・キスされた状態にある)としては言えない文になってしまいます。これは要するに、「閉める」という行為がその結果として「閉められた状態」を生み出すのに対して、「キスする」という行為は単なる動作であって「キスされた状態」を生み出すわけでないということに起因する違いなわけですね。ちなみに、こういう区別のことをテリック(telico)アテリック(atelico)の区別であると言ったりします。

*Gianni è baciato.
(文の頭にあるアステリスクはこの文が言えないことを表します)

ここまで来ると想像がつくと思うのですが、助動詞にessereを使うかvenireを使うかという問題は、この状態受動/動作受動の曖昧さを解消する手段の一つなわけですね。具体的には、venireは動作受動の解釈を優勢にします。

La porta viene chiusa.
「扉が閉められる。」

状態受動と動作受動の区別は、たとえばドイツ語学などでもたびたび論点になったりするようです。イタリア語の他にも言語を勉強している方は、比較してみるのも面白そうですね。

 

[+α](わりと有名ですが)Ghibliの由来

「あ、それ知ってるよ」という人も多いでしょうが、スタジオ・ジブリのGhibliはイタリア語なんですよね(イタリア語としての発音は「ギブリ」)。そのStudio Ghibliの名前の由来についてはこの記事の中でも取り上げられているので、その箇所を抜き出して和訳をつけてみました。(田中)

Il nome della casa di produzione che cambierà la storia dell’animazione giapponese e mondiale evoca sia il vento caldo del Sahara, ma anche un aereo degli anni Trenta di produzione italiana, omaggio alla grande passione per l’aviazione sviluppata da Miyazaki fin dalla prima infanzia – il padre Katsuji era un ingegnere aeronautico e direttore della Miyazaki Airplane che realizzava componenti per i velivoli.

日本そして世界のアニメの歴史を変えることになるこの制作会社の名前(=ジブリ)は、サハラ砂漠の熱風であると同時に、30年代にイタリアでつくられた飛行機のことでもある。これは宮崎が幼少期から育んできた航空機への熱い情熱へのオマージュなのである。(駿の父である)勝次は航空エンジニアで、航空機の部品を製造する「宮崎航空興学」の経営者だった。

 

引用箇所の語句と訳

Hayao Miyazaki, leggenda dell’animazione giapponese, compie oggi 80 anni. Nato a Tokyo nel 1941, Miyazaki scopre e inizia a coltivare la sua passione per manga e anime da adolescente. Negli anni Sessanta, dopo essersi laureato in Scienze Politiche, viene assunto dalla Toei, una importante casa di produzione per la quale inizia come disegnatore e dove, tra l’altro conoscerà Akemi Ota che sposerà nel 1965.

coltivare: (才能・情熱などを)はぐくむ、伸ばす/tra l’altro: そのうえ

日本アニメの巨匠、宮崎駿が今日80歳を迎える。1941年東京生まれの宮崎は少年期にマンガとアニメに出会い、情熱を燃やす。60年代、(学習院大学)政経学部を卒業後、東映に採用される。東映は大手の制作会社で、宮崎はそこでデザイナー(アニメーター)としての仕事を始め、さらに1965年に結婚することになる大田朱美と知り合う。

 

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