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「逃げ恥」と考える2021(1/4)「生きづらさ」とマイルドに戦う

1月2日放送のTBS「『逃げるは恥だが役に立つ』ガンバレ人類! 新春スペシャル!!」がすごくよかった。あまりによかったので、ドラマの感想をもとに4回にわたって色々考えたいと思う。

ドラマを知らない人のためにその内容を簡単に説明すると、これは就活で全敗した森山みくり(ガッキー)システムエンジニアで自称「プロの独身」津崎平匡(星野源)との「仕事としての契約結婚をテーマにした、新感覚社会派ラブコメディ」(公式ツイッターより)である。2016年秋に連続ドラマでは二人が恋愛成就するところまでを描いたが、今回のスペシャルドラマではその後の妊娠・入籍・出産・育児を描いている。随所の表現がリアルで、二人目妊娠中の身からするとドキュメンタリーかと思うほどだった。高校の保健体育や総合学習の時間に全ての生徒に見てほしいくらい。1回目の本記事では「生きづらさ」に立ち向かう本作の良さを確認しておきたい。

育休の順番待ち/制度はあるのに取れない育休

ドラマの冒頭で、部署では唯一の女性であるみくりが、他部署の同僚女性らと食事しているシーン。同僚らの部署では人手不足のため「育休の順番待ち」があるという。この「順番待ち」は数年前に実際に話題になった。法的に従業員の妊娠を管理できるわけはないのだが、中小企業や女性の多い職場のなかには(特に保育園等で多いと以前新聞で読んだが)、妊娠の順番を気に掛ける空気があるという。私自身も、知人が同僚の妊娠を陰で「このタイミングで…」とぼやくのは何度か聞いたことがある。意外と(?)分かっていない人が多いのかもしれないが、妊娠したいと思ったらすぐ妊娠できるとか、妊娠時期を計画しその通り実現するとかいうのは不可能だ。めでたく妊娠したとしても、流産の確率は平均で15%(年齢が上がればもっと上がる)と高い。早すぎるとか高齢出産とか今は妊娠されたら困るとか、周りがそういうことを言うのはまずいと思われる。

ドラマの中ではみくりだけでなく平匡も育休を取る。制度的には育休取得は男女とも認められた権利だが、平匡が1か月の育休を申請するとプロジェクトリーダーは「男が1か月も育休を取ったってやることはない」と難色を示す。制度はあるのに育休を取りづらい現状に対し疑問を持った二人は「『普通』のアップデートが必要だ」として、みくりに言われた通り平匡は「さも当然」の顔で乗り切る。なお、男性の育休取得率は年々増加しているものの、2019年には7.48%にとどまっている。新生児期のワンオペは不可能なので、早く男性の育休取得が義務化されることを望む。

選択的夫婦別姓

事実婚状態のみくりと平匡は、妊娠発覚を機に入籍する。その際に「選択的夫婦別姓制度成立を待っていたのに」というセリフが登場する(ドラマでは妊娠発覚は2019年6月の設定)。日本では未だ夫婦は同姓でなければならず、夫婦の96%は男性の姓を名乗っている。もちろん妻側の姓になる4%の男性がいるわけで、私の知り合いにも一人だけ妻の姓になることを選んだ男性がいるが、やはり男性の姓を選ぶのが「世間の常識」である。ドラマではみくりには兄がいて平匡は一人っ子であることなどを考慮して二人は平匡の姓を選ぶことにしたが、選択的夫婦別姓(選択しなくてもいいのだ!)の早期実現を望む立場としては、一度は盛り上がったこの問題が自民党内でしぼむ中、再度ドラマで扱ってくれたことがうれしい。

男と女の「呪い」

ドラマではさまざまな登場人物が描かれる。そして「男だから」「女だから」抱える生きづらさも描かれている。みくりは昔の恋人に「お前小賢しいんだよ」と言われたことがトラウマになっており、自分を縛る「呪い」となっている。ここでいう呪いとは、自身や他人を縛る先入観や固定観念のようなもの。平匡はみくりと出会うまで女性経験がなく、恋愛や結婚を自ら遠ざけようとする。これも呪いだ。みくりの伯母の百合ちゃんは50代独身。前作の連続ドラマで「おばさん」「50にもなって若い男に色目を使うなんて虚しくなりませんか?」と食ってかかる20代女性に対し言った「今あなたが価値が無いと切り捨てたものは、この先あなたが向かっていく未来でもあるのよ。(中略)自分に呪いをかけないで。」というセリフは歴史に残る名言だ。他にも、仲良くエプロンで台所に立つゲイカップルや、女性を好きになる自分に戸惑っていたと話す50代の女性も登場する。みくりと平匡が子どもの名前を「男でも女でもいい名前にしよう」として平匡が「生きていくうえで性別が変わることもありますしね」とさらっと言ったのは格好よかった。ちなみに二人の間に生まれたのは女の子で名前は「亜江(あこう)」、どうしてもキングダムに出てくる亜光将軍しか思い浮かばない。

逃げ恥は恋愛ものとして十分面白いのだが、それだけではない。人が抱える生きづらさや社会問題に対し、重すぎないのにしっかり向き合っている。次回は「家事と仕事」をテーマに考えたい。

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