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アニマルウェルフェア(1/3)

前首相の国会における虚偽答弁など、「政治とカネ」が大きな問題になっている。大手鶏卵生産会社から現金500万円を受け取ったとされる吉川元農林水産大臣についてNHKはこう報じている。

吉川元大臣はおととし10月から去年9月まで農林水産大臣を務めましたが、広島県福山市に本社がある大手鶏卵生産会社「アキタフーズ」の元代表から大臣在任中に現金500万円を受け取った疑いがあり、東京地検特捜部は元代表や農林水産省の関係者のほか、吉川元大臣本人からも任意で事情を聴くなどして捜査を進めています。(中略)「アキタフーズ」の元代表は、業界団体の日本養鶏協会の顧問などを務め、「アニマルウェルフェア」と呼ばれる家畜の飼育環境の国際基準や、生産者への補助事業などについて農林水産省などに陳情や要望活動を行っていて、吉川元大臣とも大臣室などでたびたび面会していたということです。(https://www3.nhk.or.jp/sapporo-news/20201224/7000028573.html

カネで便宜を図ろうとする大臣は論外だが、とりあえず政治家の汚職は置いておき、今回は「アニマルウェルフェア」について考えてみたい。

アニマルウェルフェアという言葉の意味について確認しておく。ウェルフェア(welfare)は福祉、分かりやすく言えば幸せとか豊かさとか。アニマルウェルフェアは動物、特に家畜のストレスをできるだけ少なく抑え、その本来の生態に合った形で快適に暮らせるように配慮する、という考え方である。欧米などでは畜産業は生産性・効率性重視からアニマルウェルフェアへの転換がすすめられており、今やアニマルウェルフェアは世界的な潮流と言えるだろう。一方で、日本の畜産業は安全性に関してはピカイチ(卵かけごはんが食べられる!)だが、アニマルウェルフェアに関しては大きく遅れていると言われる

ニュースの話に戻ると、今回問題となった「アキタフーズ」元代表が元農水相に求めたのは「アニマルウェルフェアの国際基準が日本の養鶏業者の負担にならないこと」だという。簡単に言えば「アニマルウェルフェアという家畜にとって快適な国際基準は、日本ではコスパが悪い」ということだ。

鶏を例にして考えてみよう。私たちは鶏の肉を食うし、卵も食う。本当にお世話になっていると思う。その鶏がどのような環境で育てられているか、ご存知だろうか。

採卵用と食用とで違ってくるのだが、日本の採卵用の鶏の9割以上はケージで飼育されている

これは、米国を除く欧米先進諸国における実態と大きく乖離している。

 

◆欧米諸国の採卵鶏の飼育におけるケージ使用率(2018年)

ドイツ 6.7%
オランダ 11%
イギリス 44.2%
アメリカ 83.4%
オーストラリア 54.5%

(参考:「鶏鳴新聞」EUのケージ飼養 50%以下6か国、50%以上10か国 IECの2018年各国報告データ(下)) 

 

ケージ飼いとは、鶏を鳥かご(ケージ)に数羽ずつ入れるもので、少ない面積で多くの鶏を飼うことができるし健康管理や採卵もしやすく効率がよい。鶏舎には開放型鶏舎とウィンドレス鶏舎があるが、ウィンドレス鶏舎は大規模養鶏場に多い文字通り窓がなく外界から遮断された鶏舎で、温度管理や病原菌対策のしやすさなどのメリットがある*。ただし、せまいケージの中では鶏の運動量は極めて少なくなるし、日光や外気に鶏があたることができないのは、家畜をできるだけ快適で自然な環境下でストレスなく飼養するというアニマルウェルフェアの観点からすれば問題視されることもある。
*ただし今年(2020年)の鳥インフルエンザはウィンドレス鶏舎でも発生している。

ちなみにここ2年くらい、私はなるべく平飼い卵を買うようにしている。「平飼い」とはケージに入れず自由に動き回れる状態で飼育する方法を言う。飼育者に手間がかかるため値段はお高めだが、とてもおいしい。

 

 

 

 

 

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