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アニマルウェルフェア(3/3)「ゆるペスカタリアン」という生き方

動物を食べない生き方

数年前までは仕事に命をかけていて、食事の内容などほとんど気にかけていなかったが、最近は色々考え楽しみながら料理をするようになったと思う。2020年はステイホームが続き、自炊がこれまでになく増えている。アニマルウェルフェアについての最終回である今回は、「動物を食べない生き方」であるヴィーガンについて考えてみたい。

菜食主義のベジタリアンはその中に色々細かい分類があるが、最近注目されているのがあらゆる動物性食品を避けるヴィーガンである。ヴィーガンは肉や魚介類はもちろん、動物性食品をすべて避ける。たとえば牛乳やヨーグルト、卵、かつおぶし、はちみつなど。食品だけでなく、衣類や装飾品などにも動物由来のものを使わない。アメリカやヨーロッパではヴィーガンが多く、ホアキン・フェニックスもスティービー・ワンダーもヴィーガンだ。日本でも最近増えており、ヴィーガン向けのYouTubeチャンネルやレシピ本を見かけることも増えた。私が好きなサイト「白ごはん.com」でも最近ヴィーガンのタグがつくられた。

ヴィーガンになるというのはどういうことかについては、TEDの動画「私が絶対菜食主義である理由|モビー|TEDxVeniceBeach」が分かりやすい。

ヴィーガンを選ぶ理由

人がヴィーガンを選ぶ理由は大きく分けて3つある。

一つ目の理由は、動物愛護の観点である。ヴィーガンは動物の搾取を避けようと考える。前回紹介した映画「いのちの食べかた」にみられるような「工業型畜産」と呼ばれる現代の畜産のあり方から考えるとヴィーガンの考え方も分かる気がする。紹介したTEDの動画の最後の部分、”Every animal, no matter how big or how small or how wild or how domesticated, just wants to be alive and simply wants to be happy.”(すべての動物は、大小にかかわらず、野生か家畜かにかかわらず、ただ生きたい、幸せでいたいと思っているだけなのです。)も象徴的である。

二つ目の理由は、環境保護の観点である。畜産は気候変動の大きな要因の一つとなっている。牛のゲップには温室効果ガスの一つであるメタンガスが含まれることはよく知られている。2019年にはアマゾンの大規模火災が問題となったが、その背景にあったのは、飼料となる大豆の農地を増やすための開墾であり、畜産の大規模化は多くの意味で環境に負担を与えている。また畜産には莫大な飼料や水が必要となるが、「バーチャルウォーター」という考え方がある。食料輸入国がもしその食料を自国で生産したとしたら、どの程度の水が必要か、という概念である。牛はもともと牧草を食べる生き物だが、現代畜産では効率よく太らせるためにトウモロコシなどを使った濃厚飼料が与えられている。トウモロコシの生産には多量の水が必要となる。例えばハンバーガー一つは999リットルのバーチャルウォーターに換算できるという(ハンバーガー一つつくるのに、999リットル分の水が使われているということ)。自給率の低い日本は海外の水を使いまくっていることになる。

以上から、肉を食べないことが環境への配慮、という考え方は大いに理解できる。2019年に国連気候行動サミットに出席するため訪米した小泉進次郎環境相が「毎日でもステーキを食べたい」と言ったのは、あまりに資質に欠けるといえる。「気候変動の問題はセクシーに」と言っていたけれど、ちっともセクシーじゃない。

第三の理由としては、ヴィーガンになることで健康状態が改善する、というのが挙げられる。

「ゆるペスカタリアン」になってみた

前置きが長くなったが、私にとってヴィーガンになることのハードルは高いが、ヴィーガンの考え方には結構賛同している(「畜産農家のことを考えてないのか!」とか言われると何も言えないけれど)。そこで紹介したいのが、ポール・マッカートニーが提唱したMeat Free Mondayというキャンペーンだ。名前の通り(「肉なしの月曜日」)、週に1度お肉を食べない日を設けようというものであり、それだけでも大いに環境保護につながるという。日本でも一部の大学や内閣府、東京都庁でそれに乗っかる形でヴィーガンメニューが登場している。週に1度なら、誰にでも気軽にできるのではないだろうか。

最近は、意識的に肉を買う機会を減らしている。肉を使わなくても豆腐や納豆、豆類でタンパク質は摂取できるし、料理の時にまな板や包丁が汚れにくいという思わぬ利便性も発見した。とは言ってもカレーの時には鶏肉を買うし、頂き物のウインナーは喜んで食べるし、マックに行ったらハンバーガーを注文すると思う。シチューの味出しにベーコンを使うことも多いし、卵や乳製品を全く食べないというのも今のところちょっと難しい。

     

そんな私にできそうだなと思ったのが「ゆるペスカタリアン」として生きることである。「ペスカトーレ」という魚介類のパスタを聞いたことがあるだろう。ペスカタリアン*はベジタリアンの一つだが、肉は食べないけれど魚介類(や卵・乳製品)はOKという考え方である。魚は肉と比べると、温室効果ガス排出などの点で環境への負荷はかなり小さいらしい。私は完全なペスカタリアン(=肉食を断つ)になる覚悟はまだできていないので、肉を食べる量や頻度を減らす「ゆるペスカタリアン」に最近なりつつある。この言葉は私が勝手につくったので、特に厳密な定義はないのだが、ゆるペスカタリアン的生き方をしばらくは模索してみたいと思う。

*英語でpescatarian。pescetarianとも。イタリア語で「魚」を意味するpesceに由来。

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