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[第24回]何のne?/絶好調だったGucciの業績鈍化…なぜ?①

今日は、イタリアを代表するブランドの一つ、Gucci(グッチ)の業績が鈍化している理由について考察するIl Postの記事を取り上げます。コロナ禍でファッション業界全体が打撃を受けていることは日本でもよく耳にしますが、この記事では「原因はパンデミックだけではなく、複数の要素が重なったものではないか」と分析しています。

È possibile quindi che il calo di vendite sia dovuto a un sovrapporsi di fattori: la chiusura dei negozi durante la pandemia, il blocco del turismo, una riorganizzazione generale e un momento di pausa dopo il dominio dell’estetica di Michele.

Il Post, 19 Febbraio 2021)

したがって売上の減少の原因は、複数の要因が重なって起きたものだと言えるかもしれない。それはコロナ禍での店舗閉鎖だったり、観光業の停止、(クリエイティブ・ディレクターのアレッサンドロ・)ミケーレの美学による指揮が始まってからの再編成全般や一時的な休止だったりするものだ。

さて、本題に入りましょう。今回のテーマはずばり、次の文中のneはどんな働きをしているのかということです。

Quando Michele prese in mano Gucci la trasformò, anche con l’aiuto del brillante amministratore delegato Marco Bizzarri, nell’azienda più profittevole di Kering: ne ha più che raddoppiato il fatturato, portandolo nel 2019 a 9,6 miliardi con l’obiettivo di toccare i dieci l’anno successivo.

(同上)

ミケーレはGucciを掌中に収めると、才気あふれるマルコ・ビッザーリCEOの助けもあり、ケリング(・グループ)の中で最多収益を上げる企業にまで押し上げた。彼はその総売上高を倍増どころではなく増加させ、2019年度には96億ユーロに達し、翌年には100億ドルに到達することも視野に入れていた。

※ケリングはGucciを始め、Balenciaga(バレンシアガ)、Bottega Veneta(ボッテガ・ヴェネタ)などを傘下に収める世界的なジュエリー・コングロマリット。

 

このne、意味的に考えてdi Gucciかな?

つまりha […] raddoppiato il fatturato di Gucci(彼はGucciの総売上高を倍増させた)、とね。いちばん最初に思ったのは「ne=del fatturato」なんだけど、raddoppiareは他動詞だからdiが来るのはおかしいかなって。……はい、雰囲気で読むことの弊害・限界を痛感しております。文法的解説をお願いします!

 

neはdi Gucciですね

今回の文における用法としては、動詞raddoppiareの直接目的語になっている名詞句(il fatturato di Gucci)の一部であるdi+名詞代名詞化(pronominalizzazione)しているわけですね。di Gucciは前置詞diを中心として規則を持った語の集まりで、前置詞句(sintagma preposizionale)ですね。以下ではdiを中心とした前置詞句のことを短くdi節と呼ぶことにします。

さて、この用法は第20回で扱った分格のneとよく似ていますね。ただし、分格のneが抜き出すdi節が数量を表す表現の一部であるのに対して、こちらのdi節は同じ名詞句の中の名詞(ここではil fatturato)の所有者を表しています。まあこの二つの用法を厳密に区別する必要はあんまりないと個人的には思うのですが、要するに、ここでのneの働きは実質的に所有形容詞と同じですね(ha più che raddoppiato il suo fatturato)。このようなneのことを、属格のne(ne genitivo)と言います。

neの用法

さて、ちょうどいい機会なので、ついでにどんな性質を持った語を代名詞化しているのかをキーにしてneの用法を分類してみたいと思います。

まず、繰り返しになりますが第20回で扱った分格のneは直接目的語(または、非対格構文の主語)の一部をなしているdi節の代わりをしているわけですよね。これは属格のneも同じで、属格のneも直接目的語の一部をなしているdi節にしか使うことができません。その結果、今回の文のil fatturatoや、分格のneならmoltiやdiverseみたいな直接目的語の一部はneによる代名詞化の後も残るわけですね。ちなみにneは次の文のように部分冠詞を使った直接目的語全体を抜き出すこともできて、この場合には後に何も残りませんが、これは分格のneの特殊なケースと言えそうですね。

Hai messo dello zucchero nel latte? → No, non ne (= dello zucchero) ho messo.
「牛乳に砂糖を入れた?」→「いや、それを入れていない。」

分格のneと属格のneは名詞句の一部を代名詞化するわけですが、neは動詞句の一部に対して使うこともできます。この場合にも二つのケースがあります。

まず一つ目は、動詞の補語になっているdi節を代名詞化しているケースです(以下の例は全てDevoto-Oliからとってきています)。次の文では、動詞parlareの補語であるdi節(di loro)がneになっています。ここでのneが直接目的語の一部でないことは、動詞parlareが自動詞なのでそもそも直接目的語が存在しないことからも明らかですね。

Sono famosi; ne (= di loro) parlano tutti i giornali.
彼らは有名だ。全ての新聞が彼らについて書いている。

もう一つのケースは、移動を表す動詞と共に現れる場合です。この場合、neはしばしばdi節ではなくdaを中心とした前置詞句(da節)の代わりをします。

So cosa succede in città; ne (= dalla città) vengo ora.
街で何が起こっているかはわかっている。今そこから来たところだ。

neは「di+何か」という説明をしばしば見かけると思います。これは言ってみれば、neが代名詞化する表現の形態に注目した説明なわけですね。一方で、neの用法が文の構造と密接に関わっているのは、既に扱った分格のneを見ても明らかですよね。これからはneを見かけたら、立ち止まってどんなdi節を代名詞化してるんだろうと考えてみるのも面白いかもしれません。

 

【+α】イタリア高級ブランドと中国市場

今回の記事にも書いてあるように、グッチ(に限らず、おそらくはイタリアのブランド全般)がこの業績不振を乗り切るための鍵の一部は、中国市場が握っているようですね。これはイタリア経済全体が中国への依存度を高めていることとつながっていそうです。これに関連して思い出すのは、2018年にドルチェ&ガッバーナのCMが中国への偏見を感じさせるとして炎上したことですね。

経済の面で中国の重要性が増したとしても、あるいはむしろ増せば増すほど、こうした出来事は増えていくのかもしれません。中国へのイメージはそのまま日本を含むアジア全体へのイメージとつながっているわけで、イタリアの対中感情については注視しておいて損はないと思います。(土肥)

 

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