Race Week(F1×English)

ハミルトンのmasterclass/2020年ベストレース

F1公式が実施したファン投票による今シーズンのベストレース選出企画。出遅れてしまって投票には間に合わなかったけれど、私はもちろんガスリー&アルファタウリ・ホンダ奇跡の初優勝のイタリアGP(2位に入っている)を推すし、ファン投票でも1位だろうと確信していましたが、世の中は何事もままならないものであることよ、けっこうな差をつけてトルコGPがトップでした。こちらがFormula 1.comが発表したトップ5までの投票結果↓

Your top five races of 2020

Position Race % of vote
1 Turkish Grand Prix 33%
2 Italian Grand Prix 25%
3 Sakhir Grand Prix 18%
4 Austrian Grand Prix 5%
5 Tuscan Grand Prix 4%

 

まあ今年は(も)ハミルトンの年だったということですね! まさに「絶対王者」という走り。もうこいつ何位からスタートしても結局1位じゃねえか!という絶望と尊敬です。トルコGPがどんなだったかお忘れの方のためにF1.comがまとめてくれています。

That’s right, you chose the Turkish Grand Prix as your best race of the year – and it’s easy to see why: a maiden pole position for Lance Stroll. Treacherous track conditions that saw a number of crashes before the race had even started. Sebastian Vettel back on a podium for the first time in over a year, along with Sergio Perez. And all capped off by a Lewis Hamilton masterclass that secured his seventh drivers’ crown.

(Formula 1.com, 24 December 2020)

[訳]そう、ファン投票の結果は今シーズンのベストレースはトルコグランプリに決定—理由は明らか—ランス・ストロールの初ポール・ポジション。複数台がレース開始前からクラッシュするほどのトリッキーなトラックコンディション。1年以上ぶりのセバスチャン・ベッテルの表彰台。セルジオ・ペレスも(2位)表彰台。そしてすべてを締めくくる、7度目のドライバーズチャンピオンシップ王者を獲得したルイス・ハミルトンの圧巻の走り。

 

maidenという語はmaiden voyage(処女航海)、one’s maiden work(処女作)といった表現でおなじみで、確かにmaidenは「乙女(のような)」というニュアンスを含むというのは事実であるものの、maidenの通常の語義はa girl or young womanであり、virginとは異なる(virginよりも広い、もしくは一般性が高い)ことには注意が必要。a maiden pole positionもa maiden voyageもone’s maiden workも、すべてfirstを使って書き換えられますね。

treacherousは最近やたらとよく見る(気がする)単語。Cambridge Dictionaryはこう説明しています。

If the ground or sea is treacherous, it is extremely dangerous, especially because of bad weather conditions:
(地面や海がtreacherousである場合、極めて危険であるということ。特に悪天候が理由で)

通常の路面や海上の話であれば、事故や命の危険性さえ示唆する語ですが、F1の文脈では多少雨でスリップの可能性が出てくるから即座にtreacherousになるわけです。もっとも、数年前の鈴鹿で雨の中のレースで悲劇が起きたりしているわけで、F1のコンテクストでも命の危険は伴っているわけですが。

最後の1文、And all capped off by a Lewis Hamilton masterclass that secured his seventh drivers’ crown.には「2020年シーズン終了/リカルド、ルノーでのラストレースをcap off&sign off」で扱ったcap off「~を締めくくる」が出てきていることにも注目していただきたいのですが、今日取り上げたいのはmasterclassという単語。これ、F1.comのライターさんがよく使いますね。公式Twitterでも時々見ます。ところが、これはけっこう大きめの英和辞典でも意味が載ってなかったりします。

元々masterclass(あるいはmaster class)と言えば、プロがつける稽古のことです。例えば音楽学校で専門的にピアノを学んでいる生徒たちのところにプロのピアニストが来て、生徒が一人だけ代表で前に出て直接指導してもらい、その他の生徒はそれを見ている、というな。これがいわゆる「マスタークラス」(文字通りmasterによるclass)。

比喩的な用法として、Wiktionaryにはこんな語義が載っています。

A brilliant or virtuosic performance.
(卓越した、あるいは巨匠の(ような)パフォーマンス)

今回の文脈ではこちらの意味がぴったりですね。

面白い表現ですよね。つまり、ハミルトンただ一人がプロで、他のドライバーたちは生徒たちで、あたかもハミルトンが「F1というのは、こうやってドライブするんだよ」と手本を示している、というようなイメージなわけですね。

ところで、似ているような似ていないような、DAZNのF1解説者がよく使う表現で「〇〇ドライビングスクール」というのがあります。driving schoolはもちろん「自動車教習所」のこと。これは、とりわけ抜きにくいレイアウトのコースにおいて、走行ペースが良くない車がふたをしてしまい、後続車が詰まって団子状態になってしまっていることを指していますね。例えば「クビアトドライビングスクール」と言えば、中団あたりを走っているクビアトが、よりペースが速くて抜きたがっているのだがオーバーテイクの決め手に欠ける複数の後続車を抑え込んでしまって渋滞が生じており、クビアトより前の車と差が大きくなっていくので後続車(と観客)にとってはストレスフルで、それより前の車にとっては勝手に差が広がっていくのでラッキーという状況なわけです。

この表現大好きなのですが、これも英語由来なのかな。こんど調べてみよう。

アイキャッチ画像:sbonsi/Shutterstock.com

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