第2回目の今回は、逃げ恥の大きなテーマである「家事と仕事」について、ドラマの名セリフとともに考えたい。
連続ドラマでは、みくりは平匡の「住みこみ家政婦」として給与を月当たり194,400円受け取っていた(みくりは大学院卒なのでこの給与を高いと捉えるか低いと捉えるかは難しいところだが)。あくまでみくりは「従業員」として家事を行うため家事分担は行われないのだが、ドラマの終盤でみくりが副業を始めて家事に費やす時間が減るとともに、二人の関係が契約結婚から本当の恋愛へと変わるにつれて、家事分担をめぐり二人は「雇用主と従業員」から「共同経営責任者」へと変わってゆく。
新春スペシャルドラマでは、みくりは外でのフルタイム勤務となっており、共働きの二人はうまくバランスをとりながら家事を分担していた。お互いがそれぞれ得意な家事を中心に担当し、二人とも苦手なものに関しては二人で取り組む、という風に。理想的な共働き家庭のように思える。しかし、そこに妊娠と育児が加わることでそれまでのようにはうまく行かなくなってゆく。
「僕が全力でサポートします」?
みくりの妊娠が発覚した後、平匡はみくりに「僕は全力でサポートします。できることはなんでも言ってください」と言う。一見よい夫に思える発言だが、これがみくりの逆鱗に触れる。みくりは言うのだ。「サポートって何? 手伝いなの? 一緒に親になるんじゃなくて? 私が一人で勉強して指図しないといけないの!?」と。
このセリフで思い出すのが同じTBSドラマ「コウノドリ」だ(実は逃げ恥には「コウノドリ」のスタッフが多く関わっている)。産科医療をテーマにしたドラマで本当に素晴らしい作品だった。その中のエピソードの一つに、産後うつの妻(高橋メアリージュン)と自称「イクメン」で家事育児は妻任せの夫(ナオト・インティライミ)が登場する。妻が追い込まれていく中、インティライミが妻に「大丈夫だよ。俺も手伝うから」と声をかけたのに対し、産科医の四宮(演じるのは星野源)が「“手伝う”じゃないだろ。あんたの子どもだよ」と一喝するシーンがある。(私はPrime Videoでコウノドリを見たが、ドラマ放送後にはハッシュタグ「#うちのインティライミ」がTwitter上で盛り上がり、夫への不満や怒りが爆発していたらしい。これから父親になる男性にはぜひチェックしてみることをお勧めする。)
逃げ恥の話に戻ると「僕は全力でサポートします」のセリフの背景には、男女平等の意識の高い平匡でさえ「妊娠は妻のもの」の考えがあったことが分かる。妊娠中の女性の精神状態は通常とは異なることや、自分だって初めての妊娠に不安を抱えていることをみくりは平匡に伝えるが、ここから二人が本当に協力し合えるようになるまでは時間がかかるのである。
仕事を休めないって異常ですよね
平匡は1か月の育休取得を申請したが、その頃会社で重要なプロジェクトに関わっており、育休に入る前にプロジェクトが終わるかどうか、ギリギリのラインにいた。平匡の育休を渋る上司に対し、みくりと平匡は家で「仕事を休めないって異常ですよね」と声を揃えるシーンは「よく言った!」という感じである。結局そのプロジェクトの一部を平匡の以前の職場に外注することになるが、外注先とのミーティングでも平匡のプロジェクトリーダーの上司は育休取得への嫌味を繰り返す。それに対する外注先の沼田さん(平匡の元上司)の言葉を、長いが引用しておく。
「育休だから嫌なの? ほかの理由だったら? たとえばね、突然の事故。家族の病気介護。自分自身の体調が崩れる場合もあるよね? 育休でもほかの理由でも同じ。いつ誰が長い休みをとるかなんてわからない。働いているのは人間なんだから。そういうことでしょ? そのとき何が大事かって言ったら、誰が休んでも仕事は回る、帰ってこられる環境をふだんからつくっておくこと。それが職場におけるリスク管理。それができると見込まれているからプロジェクトリーダーなのだよ。だよね~」
一方のみくりも、人手不足の会社で育休を取ることに対し同僚男性(ナオト・インティライミ)から嫌味を言われるシーンがある。その同僚は結局後で謝罪してくるのだが、「女性の天敵役」としての「インティライミの汎用性」には驚くばかりだ。
私自身、妊娠期間中や子育て中に外で働いていたことがある。どうしようもない体調不良や子どもの長引く発熱などで仕事を休まざるを得ないことが何回もあった。幸い「お互い様だから大丈夫だよ」と言ってくれる理解のある職場だったのだが、それでも申し訳ないと感じ、妊娠・育児と仕事との両立に心はくじけた。だから今は家でのんびりできる仕事を選んでいる。でも、やはり本当に「お互い様」なのだ。誰がいつ、どんな理由で休むかなんてわからない。その時に、自分も助けてもらう権利があるし、他の人をサポートしたい。そういう環境が早く「当たり前」になればいいなと思う。