現在妊娠中ということもあり、体重がどんどん増えている。体重が増えるのは当然のことなのだが、BMIが標準値の人の場合、妊娠期間全体で7~12kgの増加が理想であるのに対し、私の場合は予定日まで約2か月を残しすでに12kg増えている。毎日体重が気になり非常に気が重い(体も)。
これはまずいということで、さまざまなダイエット方法を調べており、目下夕食のみ炭水化物抜きという「ゆる糖質制限」で落ち着いている。もちろん運動が重要であることは分かっているが、コロナ禍でしかも妊婦という状況であまり激しい運動はできない。巷には他にもさまざまなダイエット方法があふれているが、最近よく聞くのが「ファスティング」、つまり断食である。
ダイエットの論拠となった発見
たとえばよく目にするのが「8時間ダイエット」、これは24時間のうち8時間以内にすべての食事を済ませる、というものだ。「月曜断食」というのも話題になったが、これは月曜だけ食事をとらず水のみで過ごすこと。『「空腹」こそ最強のクスリ』『「空腹」が人を健康にする』『空腹力 やせる、若返る、健康になる!』などの著作も話題になっている。
これらのダイエット論の論拠の一つとなっているのが、2016年にノーベル医学生理学賞を受賞した大隅良典氏が解明した「オートファジー」である。オートファジー(ギリシャ語で「自食」)とは、栄養状態が悪化した細胞は、自身のたんぱく質を分解、再利用し、新しい細胞を作るという仕組みだ。すなわち、体が飢餓状態に陥った時にオートファジーが働くから、食べない時間を長くとることで、体の老廃物が一掃され細胞が活性化し健康を保てるというのだ。
ラマダーンの科学的効果
さて、オートファジーの研究を待つまでもなく、1400年前から断食をしてきた人たちがいる。イスラム教徒である。2021年3月3日朝日新聞デジタルの記事では「ムハンマドの教え、実は科学的? 断食効果に世界が注目」という興味深い記事があった。
念のためラマダーンとは何か確認しておく。
イスラム教徒にはラマダーン月(イスラム暦9月)の1カ月間、日の出から日没まで飲食を断つ義務がある。断食(アラビア語で「サウム」)はイスラム教徒の五行(信徒の重要な5つの義務)の一つである。なぜ断食の義務があるのかというと、日々の食事を与えてくれるアッラーへの感謝を再確認する、自制心を鍛える、恵まれない人への同情心を持つ(イスラムでは同胞意識が重要)などの理由があると聞いたことがある。とは言っても、病人や高齢者、妊婦や授乳中の女性などは免除されるし、わけあって断食できない場合にはその日数をラマダーン後に繰り越して断食することもできるなど、わりと柔軟である。そもそも私のイスラム教徒の友人の中では断食しない人も多かった。イスラム暦と太陽暦にはズレがあるので、毎年ラマダーンの期間は少しずつずれ、冬の断食は日が短いから楽だが夏はかなりつらい。それでも日が沈めば毎日のように家族や友人と集まって豪華な食事をし、ラマダーン月が終わればそれこそお祭りで、日本人がイメージする「つらい断食」とは少々様相が異なっている。
オートファジーの意外な余波
朝日新聞の記事の話に戻ると、大隅氏が「オートファジー」でノーベル医学生理学賞を受賞した2016年以降、飲食時間を制限するラマダーン中の断食が健康によく合理的であるとする科学研究がイスラム世界で盛んだという。宗教的な行為である断食が、実は健康にもよいというのはとても面白い。記事によると、断食の科学的効用が説かれるようになったことで、ますます信仰心を深める信徒もいるという。