F1を見ている人にはわかりきったことですが、グランプリ後の表彰台に上ることができるのは、レース勝者・2位・3位のドライバー、そして勝者のチームのメンバーが一人の計4人です。つまり、ドライバーだけでなく、チームの代表者だったり、ドライバーのフィジオだったり、エンジニアやメカニックも登壇するわけです。
さて、それを踏まえたうえで、今回の舞台は2020年第2戦シュタイアーマルクGP。黒人女性として初めてF1表彰台に乗ったというStephanie Travers(ステファニー・トラヴァーズ)さんが主人公です。彼女はメルセデスのエンジニアで、同レースでハミルトンが優勝したことで表彰台に乗る機会を得ました。記事はこちらから読めます。CNNの記事ですね。
ステファニー・トラヴァーズさんはジンバブエの出身で、モータースポーツファンの家族に育ったことが書かれています。家族はステファニーさんが10歳のときに英国に移住し、彼女も自然とモータースポーツ、F1が好きになり、友達と一緒にレースを見に行くようにもなった、とあります。好きが高じて本格的にエンジニアを目指すようになり、ついには夢のポジションを得た彼女ですが、記事ではこんな記述があります。
Knowing that it could potentially get her into F1, Travers decided to specialize in chemical engineering. Ultimately, however, she says it was important to find a career that she enjoyed, as the competitive nature of the F1 meant earning a place in the sport was anything but a foregone conclusion.
それ(彼女のモータースポーツへの情熱)によって自分がF1の世界に入れるかもしれないということがわかったトラヴァーズは、化学工学を専攻することに決めた。しかし結局は、自分が楽しめる仕事を見つけることが大切だったと彼女は話す。なぜなら、競争が激しいというF1の性質ゆえに、そこで職を得るということは、(化学を専攻したことの)必然的な結果などでは到底なかったから。
ultimatelyを「オックスフォード現代英英辞典」で引くと、2つの語義が出てきます。
- in the end; finally
- at the most basic and important level
私は初め、ここでは「2.」の意味で解釈するのが正しいのかと思っていたのですが、校正していただいている方に確認したところ、「1.」の方が自然であるとのことでした。すなわち、「F1に入りたくて化学を専攻したが、それが全てではないから、F1の世界に入れなくても好きなことをしようと最終的に思うようになった」との解釈です。なるほど。
もう一つ面白いと思ったのがanything but a foregone conclusionです。a foregone conclusionは「当然予想できる結果」ということですが、「こういうふうにも使うのかあ…」と。
いくつか用例を見てみましょう。
It’s a waste of time to argue about something when the outcome is a foregone conclusion.(結論ありきということなら、議論しても時間の無駄だ)『最新日米口語辞典』
It is not a foregone conclusion that the legality of firearms causes violence.(火器の合法化がすなわち暴力を引き起こすとみるのは、必ずしも正しい結論ではありません。)『英辞郎』
最後にもう一つ、reckoningという語についても見てみます。
In the wake of George Floyd’s death last year, sport around the world began a reckoning with what it was doing about racial inequality.
(昨年のジョージ・フロイドの死を受けて、世界中のスポーツが、自分たちが人種的不平等に対して何をしてきたことに対応し始めた。)
「対応」と訳しましたが、例えば研究社『リーダーズ+プラス』には、こんな語義が載っています。
2 a 《将来への》予測, 見込み; 見積もり, 評価[…]
b 判断; 過去の清算[告白]; 過去のあやまちへの審判, 罰.
「過去のあやまちへの審判」という訳はなんだかすごいですが、意味としてはここにぴったりです。次の文にもあるように、F1は人種多様性において極端に貧しいスポーツであることは言うまでもありません。
F1 is among the least diverse sports in the world; in fact, Hamilton is the only Black driver to have ever raced in the sport. The importance of his presence, in particular for young Black kids dreaming of one day making it in the sport, cannot be overstated.
(校正 ロブソン麗奈さん)