Grammatica+  上級へのイタリア語

[第47回]仮定法/どうなる?アリタリア

今回は何十年にもわたって続く「アリタリア再建」問題についてのIl Postの記事です。ずっと再建が問題になっているというのは、ある意味ではずっと破綻しているということで、なんだかすごいですが、昨年ついに完全な国営企業に移行することになってしまい、正式名称も「ITA(Italia Trasporto Aereo)」に変わりました。

で、会社の再(再々…)出発のために、イタリア政府と欧州委員会が支援策を巡って協議を進めているのですが、この二者間の新たな合意として、旧会社Alitaliaと新会社ITA(最終的にどういう呼称になるかは未定)の間はuna totale «discontinuità economica»、つまり「財政的に完全に断絶するものとする」、ということが決まりました。つまりAlitaliaの借金を背負わずに再スタートが切れるということですね。それについて、記事はこう書いています。

Questo passaggio è particolarmente importante perché la Commissione sta indagando sulla possibilità che gli 1,3 miliardi di euro che lo stato italiano ha versato ad Alitalia negli ultimi anni costituiscano aiuti di stato: se lo fossero andrebbero restituiti, e grazie alla discontinuità tra le due aziende non sarà ITA a doverlo fare.

Il Post, 27 Maggio 2021)

この一節(=財政的に断絶するということ)はとりわけ重要で、というのも(欧州)委員会は、直近数年でイタリア政府がアリタリアに投入した13億ユーロが(EUの支援制度である)国家支援に該当する可能性について調査中だからである。もしそうなら、それは返済されなければならない。そしてその新旧2社の断絶のおかげで、ITAはその返済義務を負わないで済むのである。

 

今回は仮定法を正面から扱ってみようじゃないかという企画です

 

もしも飛べたなら…ってやつですね

この手の文は、periodo ipoteticoと呼ばれます。条件を述べている部分(se lo fossero)のことを「条件節」protasi、結果を述べている部分(andrebbero restituiti)を「帰結節」apodosiと、ギリシャ語源の何やらインテリ感のある用語で呼ぶことがありますね。

仮定法といえばどの程度の可能性があって、時はいつで…みたいな場合分けがめんどくさいというイメージがあると思います。これはまあその通りですが、イタリア語の仮定法は本質的に二種類しかありません可能性の高い(ありえる)仮定と、可能性の低い(ありえにくい)仮定です。次の二つの文では、(1)が可能性の高い仮定で(2)が可能性の低い仮定ですね。前者では条件節と帰結節ともに直説法、後者は条件節に接続法半過去、帰結節に条件法が使われます。

(1) Se arriviamo in tempo andremo a giocare a tennis insieme
間に合ったら、一緒にテニスをしにいこう

(2) Se me lo domandassi tu, verrei a lavorare anche la domenica
君に聞かれたら、日曜も働きに来るけど

https://www.treccani.it/enciclopedia/periodo-ipotetico_%28La-grammatica-italiana%29/

今回の文は接続法半過去からの条件法という、典型的な可能性の低い仮定を表す文ですね。そもそも仮定の話をしたい時というのは条件が実現するかどうかが不確定な場合というのが大体であって、実現することがわかっているなら仮定として提示する意味はあんまりないですよね。そう考えると、可能性の低い仮定というのは仮定法の本流と言えるかもしれませんね。

さて、こう言うと「事実に反する(controfattuale)仮定はどうなるの?」という疑問を抱く人がいるかもしれません。確かに、文法書を開いてみると仮定法はしばしば「可能性の高い・可能性の低い・事実に反する」の三つに分けられています。でも、イタリア語では事実に反する仮定というのを示すための文法はありません。どういうことかというと、可能性が低い仮定というのは可能性が0%の場合を含んでいるのですね。単に低いだけなのか事実に反しているのかは、文脈に照らして判断するしかありません。

今回の文を見てみてください。これは、事実に反する仮定ですね。でも、動詞の形自体は上の例文(2)と同様に接続法半過去+条件法の組み合わせです。この仮定が事実に反しているということは、実は文そのものには書いてないんですね。事実に反しているかどうかは、動詞の形が示している「可能性が低い」という点や、文脈(今回の場合は、すぐ後に実際にはそうでない旨が書いてありますね)から、聞き手・読み手が判断することです。

文法マニアの方なら、「じゃあ接続法大過去はどうなの?」となっているかもしれませんね。接続法大過去を使った仮定文は、しばしば(過去における)事実に反する仮定と説明されますよね。でも、実はそんなことはありません。次の文を見てみましょう。この文では、話し手は「あの人」が映画を見たかどうかを知りません。したがって、事実に反する仮定ではありませんね。単に見た可能性が低いと思っているだけです。

(3) Se avesse visto il film, saprebbe chi è l’assassino. Chiediamoglielo! (Salvi & Vanelli 2004: 278)
もしあの人が映画を見ていたら、誰が犯人か知ってるはずだよね。聞いてみよう!

接続法大過去は条件節が過去のことである場合に使うわけですが、これが一般に事実に反する仮定として解釈されるのって、実は時間というものの一般的な性質を反映した結果に過ぎません。どういうことかというと、過去に起こったことというのは、原理的にすでに事実であるかどうかが確定しているわけですよね。その結果として、例文(3)のようなどちらかといえばレアな状況でなければ、話し手は条件節の内容が事実かどうかを既に知っているわけです。なので、事実かどうかを知っていて(0%を含む)可能性の低い仮定として提示してきているということは、事実に反しているのだという解釈が大体の場合において妥当になるわけですね。

繰り返しますが、これは文に書いてあるのではありません。(時間というものに関する一般的な知識を含む)文脈に照らして、聞いたり読んだりしている側の解釈に委ねられている部分なのですね。別の言い方をすると、接続法大過去が事実に反する仮定として解釈されることが多いのは、世界のありようが理由であって言語そのものとは関係がないのです文法が区別するのは、可能性の高い仮定と低い仮定の二つだけです。こう考えると、仮定法はイメージよりもシンプルですね。

 

[+α]「Alitalia」という名前は消えてしまうのか

Alitaliaという名前は、「翼」を意味するalaの複数形aliとItaliaを組み合わせたもので、世界に数ある航空会社の名前の中でも抜群にかっこいい(と私は思う)のですが、度重なる経営危機をなんとか乗り越えてきた……ならよかったのですが、結局経営を立て直すことができずにいたところへコロナ禍がやってきてとどめを刺され、昨年ついに完全に国有化されることになってしまいました。初めにも書いたように、現在の正式名称はITA(Italia Trasporto Aereo)です。

私のような事情に通じてないド素人からすると、「お金のことはよくわかんないけれど、Alitaliaというかっこいい名前がITAになるのは残念」という小学生並みの感想が浮かんでくるのですが、それに対する返答として、記事にこんな一節がありました。

Un altro asset che sarà messo in vendita è il marchio “Alitalia”. Il governo vorrebbe infatti che la nuova compagnia non si chiami ITA, ma che mantenga il nome Alitalia, che ha ancora un notevole richiamo e valore commerciale.

(ソースは同上)

売却対象となる予定のもう一つの資産が「Alitalia」というブランド名である。実はイタリア政府は、新会社の名前には、ITAではなく、Alitaliaという名称がそのまま残ることを望んでいる。その名には今でも特別な魅力と商業的価値があるからだ。

ですって! まあこれは単にイタリア政府の願望でしかないわけですが、残るといいな(個人的願望)。(田中)

 

 

 

 

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