Race Week(F1×English)

「リザーブ」とは何だったのか/dovetail

契約などあってなきに等しいとしばしば言われるF1界の厳しい、というかご都合主義的な側面がまた垣間見えることとなった。Covid-19の陽性反応が出て次戦欠場が決まったハミルトンの代走を務めるのがジョージ・ラッセルと判明し、今シーズン、メルセデスのリザーブドライバーとしてチームに帯同していたストフェル・バンドーンにそのチャンスが与えられなかったのである。正直に言おう、私はそもそもラッセルがウィリアムズの正ドライバーとメルセデスのリザーブを兼任しているのだと勘違いしていたし、ハミルトンの代行は普通に行けばラッセルだろうと思っていたし、バンドーンのことは忘れていたし、そして思い出した後も「ラッセルの走りの方が見たいな…」と思ってしまった、ということを。だがまあやはり今期のラッセルはそれくらい(主に予選で)見せ場を作ってきたし、チーム首脳陣にも好印象を与えてきたということなのだろう。

このことを記事にしたF1公式では「バンドーンの近況報告」を力業で1パラグラフにまとめている箇所があった。そこに面白い単語を見かけたので取り上げてみよう。

Vandoorne has been present with the Silver Arrows at races this year, dovetailing his reserve role with driving in Formula E for the German manufacturer. After testing his Formula E car in Spain on Tuesday, Vandoorne flew straight out to Bahrain to join up with the team, though he soon discovered he wouldn’t be adding to the 41 Grand Prix starts he achieved with McLaren from 2016-2018.

https://www.formula1.com/en/latest/article.mercedes-reserve-vandoorne-says-it-hurt-not-to-have-been-called-up-to.53mY3FnZbZlkG0h35EBHiV.html

バンドーンは今季のレースをシルバーアロウ(=メルセデス)に帯同しながら、リザーブドライバーとしての役目と、ドイツの同自動車メーカー(=メルセデス)のフォーミュラEのドライバーをうまく両立させていた。火曜日、スペインでフォーミュラEの車をテストしたあと、バンドーンはまっすぐバーレーンに飛びチームに合流したが、すぐに彼は、自分が2016~2018年シーズンにマクラーレンで達成した41回のレーススタート回数の数を増やすことはないと知ったのである。

 

バンドーンは「メルセデスのリザーブ」で「フォーミュラEのメルセデスのドライバー」で「過去3シーズンマクラーレンで走っていた」ということをわずか2文のうちに詰め込んでいるのだが、ここにdovetailという単語が出てくる。これは、木材の継ぎ合わせ方の一種で、Googleで「dovetail」を画像検索すれば「ああこれか、見たことある(ようなないような)」と何となくお分かりいただけると思う(例えばこちらをご参照いただきたい)のだが、dove・tail、すなわち「ハトの尾」に似た、先の広がったほぞの形を組み合わせる方式のことを指す(日本語では「蟻つぎ」と言うらしい)。そこから転じて動詞として「何かと何かがぴったりはまる、一致する、合致する」などを意味する。つまりバンドーンは〈his reserve role〉と〈driving in Formula E for the German manufacturer〉をうまいことdovetailさせていた、と言っているわけである。

Kids.Wordsmythというオンライン辞書でわかりやすい語義と例文を見つけた。

to fit together precisely or harmoniously.

Your plan to provide part-time work to city youth dovetails nicely with our efforts to beautify the city parks this summer.

(市街地の若者にアルバイト職を提供しようというあなたの企画は、この夏、市の公園を美化しようとするわれわれの取り組みとぴったり合致するものだ。)

そういえばバンドーンは2016年の開幕戦でアロンソが大クラッシュして欠場した時に代行で出たのがデビュー戦で、あの時もバーレーンだった。あのときの走りが一番記憶に残っているかもしれない。

(December 4, 2020)

 

※追記

このあと、今季のバンドーンはFormula Eでどんな戦績を収めているのか調べてみたら、ランキング2位につけていた。直近のグランプリでは優勝もしている。(12/9)

こちらの記事もおすすめ