逃げ恥の新春スペシャルドラマで秀逸だと思ったのは、新型コロナウイルスの描き方だ。ドラマでは2019年(みくりの妊娠)から2020年(出産・育児)までを描いているが、ちょうど二人の子どもが生まれたころ(2020年2月)からウイルスの猛威が広がってゆく。
コロナ禍で妊娠届減少
2020年12月24日の日本経済新聞によると、2020年の妊娠届件数が、前年同期に比べて5.1%減少しているという。想定以上に少子化の進行が加速したのは、やはりコロナのせいだろう。妊娠中の女性は同年代の非妊婦に比べ、感染した場合に重症化するリスクがやや高く、早産のリスクも高まるという研究結果がある。そのような不安を理由とした「妊娠控え」に加え、経済的理由(感染拡大の影響による解雇は8万人を超え、特に非正規雇用の女性を直撃している)もあると考えられる。同記事では、妊娠のみならず婚姻件数も減少していると紹介している。外出自粛が求められる中で、出会いの機会も減っているのだろう。
このような不安の中での出産・育児を「逃げ恥」がどう扱ったのか、振り返りたい。
検索魔/買い占め
みくりは計画無痛分娩で出産した。実際には予定日の前日に破水して生まれたので平匡が「無計画だ!」と焦るシーンもあるが、赤ちゃんは無事生まれた。
1か月の育休を取得した平匡も一緒に二人での育児が始まる。しかし間もなく平匡の職場から「社長が自宅待機になり、熱を出した社員も多く困っている。できるだけ早く復帰してほしい」と電話がくる。その時に二人は初めて新型コロナウイルスの拡大をニュースで知ることになる。
未知の感染症は誰にとっても恐怖だが、万が一乳児に感染したらどうなるのか、みくりはひたすらインターネットで検索して不安になる。帰宅した平匡にはすぐシャワーを浴びるように言い、ミルク用の水のペットボトル容器も洗剤で洗ってから使用する徹底ぶりだ。マスクや消毒用アルコールが買えなくなっていく様子もリアルだった。
今のところ、日本では子どもの感染者数は他の年代に比べると少なく、重症度も低い傾向にある。だけれども、ただでさえ不安の尽きない育児をコロナ禍の中で行うのはさぞ大変だろう。2020年春の緊急事態宣言でトイレットペーパーやティッシュペーパーなどの紙製品買い占めが問題となった時に、おむつも一時的に品薄となった。赤ちゃんに必須のガーゼも、手作りマスクの流行からか買えなくなったことがあった。買い置きの大切さを思い知ったが、本当に必要な人に届くよう冷静な判断が必要である。
疎開育児
平匡が育休を返上し仕事に復帰すると、二人の不安はますます強まる。平匡が外からウイルスを持ち帰り、赤ちゃんに感染させてしまうのではないかという不安だ。結局二人は、みくりと赤ちゃんがみくりの両親が住む千葉の館山に「疎開」するという道を選んだ。家族が離れ離れになったのだ。これは極端な話ではないと思う。現実でも、海外で妊娠したが母子だけが帰国して出産し父親に会えないままとか、生まれた我が子を実家の親に見せることができないとか、色々とつらい話を聞く。平匡はこの後、どんどん成長する我が子に何か月も会うことができなかった。
どうなる2021
ドラマでは家族が再会するところ(緊急事態宣言解除後と思われる)で終わる。そして2021年1月8日現在、現実の日本では一都三県で緊急事態宣言が発令されている。医療崩壊が現実のものとなりつつあるなか、国内で複数の変異種も確認され、今後の見通しは立っていない。
逃げ恥新春スペシャルは、妊娠・出産や夫婦別姓・同性愛・育児休暇など性別にまつわる「普通のアップデート」や、コロナ禍の不安を丁寧に描いた。2021年はそんな「アップデート」が本当に実現されるとともに、回復の年になることを願っている。