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[第74回]満を持して登場「補助動詞」/EU、巨大IT企業によるデジタル市場囲い込みを規制へ

さて今回は、グーグルやアップルなどの巨大IT企業の独占的な行為を規制していこうというニュースを取り上げます。ユーザーの囲い込みを行ったり、自社アプリの利用を強制したりといったことを禁止する措置を取っていく、というEUの取り組みについてです。

以下に引用する文では、新たな規則により、IT大手各社が今後何をできなくなるのかが記されています。

Con le nuove norme, ricorda Breton, le società “non potranno più bloccare gli utenti nei loro ecosistemi, non potranno più decidere quali app dovranno essere preinstallate sui dispositivi, o quali app store usare. Non potranno più concedere vie preferenziali ai propri sistemi, prodotti e servizi, le loro app di messaggistica dovranno interagire con le altre, e così via”.

La Repubblica, 04 LUGLIO 2023)

(欧州委員会のティエリー・)ブルトンは次のように述べている。この新たな規則により、(規制の対象となる)大手各社は「今後ユーザーを、彼らが一体となって形成しているエコシステム内に囲い込むことができなくなり、ユーザーのデバイスにどのアプリがプリインストールされていなければならないかを決めることができなくなり、各社のメッセージアプリは他社のメッセージアプリと互換性を持たなければならなくなる」。

※ecosistemi(エコシステム):経済用語としては、次のような意味で使われるようですね。「複数の企業によって構築された、製品やサービスを取り巻く共通の収益環境。具体的には、ある特定のスマートホンを中心に、アプリケーションソフト、電子マネー、イヤホンや充電器などの関連製品が、つながりをもつ全企業に収益をもたらす環境を構築している例などが挙げられる。」 (「デジタル大辞泉」より)

 

(田中)マーカーを引いたのはすべて補助動詞です。今回で74回目となるこのブログですが、なんとこれまで、補助動詞をテーマとして取り上げたことはおろか、文中に「補助動詞」という言葉が登場したことすら一度もなかったんですよね。理由としては恐らく、意味を取るのに困ることがさほどないように思えるからだと思います。でも、この「補助動詞」という用語の名前からして、いかにもこのブログで好まれそうな(?)名前ですよね! イタリア語文法において、この補助動詞というのはどのような位置づけにあるのですか?

 

(土肥)補助動詞、盲点でしたね

 

イタリア語文法でけっこう最初の方に習うし、目を引く部分なので、一度も扱っていなかったのにはちょっとびっくりしました。こういうとこがマニアックなブログという感じがしますね。イタリア語ではverbi serviliと言います。日本語での翻訳があまり統一されていない用語の一つで、軽く教科書や文法書を眺めてみるだけでも補助動詞の他に従属動詞だとか準助動詞だとか、とにかく色んな呼ばれ方をしているんですよね。いずれにせよ、今回の文に出てくるpotereとdovereにvolereとsapereを加えた四つの動詞のことですね。

ところで用語についてもう少し掘り下げてみると、verbi serviliという呼び方はその翻訳をどうするかはともかく日本ではかなり普及していますが、イタリアではちょっと古いというか、伝統的な呼び方ですね。別に古い言い方だから悪いというわけではないのですが、servile「補助的、従属的」な動詞であるというのは要するに、他の動詞と一緒になって使われるという点に注目しているわけで、形式に注目した用語であると言えそうです。たしかに、これらの動詞の特徴はすぐあとに不定詞(今回の文なら、bloccare、decidere、essere、concedere、interagire)を伴うことですよね。まあ、本当に「従属」しているかはけっこう怪しくて、たとえば近過去にする時は不定詞になっている動詞が助動詞にessereを使う動詞でもavereを使うことができるし、意味からいっても「ブロックすることができない」と言った時に「ブロックする」が「できる」よりものすごく重要であるとは直感的には別に思われない気もします。

さて、じゃあ今はどういう言い方をするかといえば、verbi modali「法の助動詞」と呼ばれることがよくあります。modale「法の」というのは、第13回で出てきたmodi del verbo「叙法」だとかmodalità「モダリティ」と関係のある言葉ですね。モダリティというのが何だったかというと、文が表す出来事に対する話し手の態度のことでした。ポイントなのは、文というのはしばしば何かしらの出来事を表していると同時にその出来事に対する話し手の態度だとか判断を表しているということですね。このことを理解するために、記事の一部を簡略化して抜き出した次の文を考えてみます。

Loro devono interagire con le altre.

それら(各社のメッセージアプリ)は他のものと相互に作用しなくてはならない(互換性がなくてはならない)。

この文は、考えてみると次のように、階層をなす二つのことを表していますよね。

[出来事 それらは他のものと互換性がある]。

[話し手の判断 [出来事 それらは他のものと互換性がある]というのは、義務である]]。

不定詞の動詞interagireは、「互換性がある」という出来事を表すために使われていますね。これに対して、dovereは「義務である」で、不定詞の動詞を中心として表される出来事に対する話し手の態度・判断を表すために使われているわけですね。こうして見てみると、dovereだとかpotereみたいな動詞は、叙法と近い役割を担っているんですね。verbi modaliというのは、意味に注目した呼び方であると言えそうです。

どちらの用語を使うにせよ、これらの動詞は不定詞になっている動詞との組み合わせで使われることが特徴ですね。他に不定詞と組み合わされる動詞とどんな風に違っているのかについても、ぜひ考えてみてください。

 

【+α】TikTokと好相性のイタリア

今回の記事でも挙がっているように、日本と同様にイタリアでも生活していると自然にこれらの大企業の製品に囲まれることになりますね。SNSに関してはTwitterが強めの日本やアメリカと違って、イタリアでは日本以上にInstagramやTikTokが人気のようです。TikTokに関しては、最もフォロワーの多いユーザーであるKhaby Lameがイタリア人というのは割と有名な気がします。Khaby Lameはセネガル出身ですが、2022年の8月にイタリア国籍を取得しています。

Khaby Lame riceve la cittadinanza italiana. Il tiktoker: “Un orgoglio, questo giuramento non sono parole al vento”

ちなみに、世界で二番目にフォロワーの多いユーザーはCharli D’Amelioといって、こちらはアメリカ人ですがイタリア系なんですよね。イタリア人、TikTokと相性いいのかもしれません。(土肥)

 

 

Image by Biljana Jovanovic from Pixabay

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