ダイヤモンドがさほど希少でないにもかかわらずある種の特権的な地位を保ち続けているのはデビアス社が市場を独占しているから、というのは公然の秘密、というか別に秘密でさえありませんが、「ふーん、じゃあダイヤモンドの指輪をプレゼントするのって別にロマンチックじゃないんだ」で済むほど甘い話でもないことは、2006年の映画『ブラッド・ダイヤモンド』を見ればわかります。エドワード・ズウィック監督(『アイ・アム・サム』とか『ラスト・サムライ』の監督ですね)、レオナルド・ディカプリオ主演のハリウッド映画です。
ダイヤモンドがシエラレオネ紛争の資金源となっていることを物語の筋とするこの映画には、紛争の陰でダイヤモンド取引に関わる「ヴァン・デ・カープ」という会社が出てきます。「デビアス」がモデル、というかそのものです。映画のセリフにもあるように、「ダイヤを引き受けられるのは当社だけ(your diamond could have ended up nowhere else but with us)」なのだから。
いい映画です。3点に絞って魅力を伝えましょう。
まず、ジンバブエ出身のダイヤモンド密輸業者の白人(ディカプリオ)と息子を反政府軍に誘拐され家族も離散させられたシエラレオネの黒人という二人の主人公に加えて、アメリカ出身のジャーナリスト(ジェニファー・コネリー)を主要キャラとして登場させているのがポイントで、この作品はこの人物の描写を通じて「アメリカ(人)のアイデンティティーについて非常に自覚的なアメリカ映画」であろうとしています。このジャーナリストの登場シーンのセリフがそれを象徴しています。
ディカプリオ:(自己紹介をして)ダニー・アーチャー
コネリー:マディー・ボウエン
ディカプリオ:よろしく
コネリー:よろしく
ディカプリオ:アメリカ人?(American, huh?)
コネリー:有罪?(Guilty?)
ディカプリオ:諸悪の根源だな(Yeah, Americans usually are.)
(日本語訳は映画の字幕による)
「あなたはアメリカ人か?」と聞かれて「それって有罪?」と自分で思えるアイデンティティー。アメリカ人の特権です(皮肉)。
さらにこの映画は、「『アフリカにおける内紛を食い物にする白人』をさらに食い物にしている(白人のための)映画」という構造にも自覚的です。それもまた、このジャーナリストの描かれ方に現れています。ぜひ見てみてください。
もう一つ、この映画が訴える最も痛ましい事実・史実は「少年兵」の存在です。反政府組織が集落を強襲して兵士にできそうな少年たちを誘拐(ほかは惨殺)し、恐怖による洗脳を行い、麻薬を常用させ、殺人マシンに仕立て上げる。まあ、これは映画の魅力というか、本当に目を背けたくなるほどつらいのですが……
あとはディカプリオですね。最高です。(田中)